- 深刻な化学汚染を、冷たいプラズマを使って分解できる
- 冷たいプラズマは温度は低くても高エネルギーの電子をもっている
有機フッ素化合物は「液体を弾く性質」が重宝され、フライパンの表面や防水スプレー、食品包装など幅広く使われています。
そのため、現在の米国人口の98%の血の中に、有機フッ素化合物が検出さると言われています。
有機フッ素化合物(PFASと呼ばれる)には「がん」や「甲状腺の異常」「高血圧」などを引き起こすことがわかってきました。
これらの加工に用いられた有機フッ素化合物は、耐久性と耐火性を求められる素材に使われていたせいもあり、その化学結合は非常に強固です。そのため、一度飲料水に混ざると排除はほぼ不可能とされてきました。
しかし今回、米国のドレクセル大学の研究者たちは、低温の「冷たいプラズマ」を用いて、有機フッ素化合物を分解する方法を開発しました。
研究内容は、ASA J.ルイス氏らによって1月29日に学術雑誌「Environmental Science: Water Research & Technology」に掲載されました。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/EW/C9EW01050E#!divAbstract
冷たいプラズマは低温でも、高エネルギーの電子を持っている
これまで有機フッ素化合物を除去する際には、活性炭のフィルターが使われてきました。
しかし使用済みの活性炭を適切に(高温で)処理しなければ、染み込んだ有機フッ素化合物を再び環境に解き放ってしまいます。
完全に汚染を食い止めるには、有機フッ素化合物の炭素結合を分解するか、化合物からフッ素原子を除去する必要があります。
古典的には加熱することで、どちらも可能となりますが、最低でも摂氏1000℃が必要とされ、飲水のような大量の水を処理する過程には向きません。
そこで研究者たちは、加熱せずに有機フッ素化合物に強力なエネルギーをあてる方法として「冷たいプラズマ」を候補にあげました。
通常のプラズマは高温、高エネルギーによって原子核と電子が分離している状態です。
しかし冷たいプラズマは「電子の運動エネルギーは大きく、多少電離している状態にありながら、イオンや分子の熱エネルギーが小さくて温度が低い」という特殊な状態にあります。
この冷たいプラズマならば、処理設備の温度を上げずに、有機フッ素化合物の結合エネルギーを断ち切れるのではないかと期待されたのです。