ミツバチの腸内に「ウイルス・キラー」を装備させる
では、なぜ腸内バクテリアを遺伝子操作するのでしょうか?
ミツバチは人と同様に、腸内にバクテリアを保有しており、それらが「RNA干渉(RNAi)」という対ウイルス防御システムとして働きます。
RNA干渉とは、酵母菌からヒトまで多くの生物に見られる免疫システムです。これは「RNAウイルス」という特定のウイルスに対して身体が戦うのを手助けしてくれます。
ミツバチに感染する翅変形病ウイルスは、まさにRNAウイルスに当たります。こうしたRNAウイルスが体内で検知されると、RNA干渉が起動し、ウイルスの発現を効果的に防いでくれるのです。
研究チームは、このメカニズムを利用して、ミツバチには有益なRNA干渉を促進し、反対に寄生したダニやウイルスには致死的となるよう、腸内バクテリアを遺伝子操作しました。
実験では、遺伝子操作バクテリアを含む砂糖水溶液を数百匹のミツバチにスプレーし、互いに毛づくろいをすることで、腸内に摂取させています。
次に、その効果を確かめるべく、「バクテリアを含むミツバチ(実験群)」と「バクテリアを含まない普通のミツバチ(コントロール群)」を用意し、ヘギダニおよびウイルスに対する抵抗力を比較しました。
その結果、実験10日目の段階で、実験群におけるヘギダニの死亡率は、コントロール群より70%も高く、さらに、ウイルスの死滅率は、コントロール群より36.5%高いことが判明しました。
遺伝子操作を用いることで、ミツバチの体内に「ウイルス・キラーシステム」を持たせることに成功したのです。
一方で、遺伝子操作されたバクテリアが、誤って野生に解き放たれ、自然環境を破壊してしまわないかは懸念すべき点でしょう。
しかし、モラン教授は「このバクテリアは、ミツバチの腸内以外では長生きできないよう編集してあるので、その心配はない」と述べています。
ミツバチは、野菜や果物の栽培にとって重要な役割を果たし、彼らの死は人間の死をも意味します。減少の一途をたどるミツバチを、科学の力で救うことはできるのでしょうか。