アニサキス激増の原因は?
アニサキスが過去数十年間で大幅な増加を引き起こした原因は未確定のままです。もしかしたら、気候変動や肥料流出による栄養素の増加が関係しているかもしれません。
また、研究者たちは、アニサキス激増に「アニサキスのライフサイクル」と「海洋哺乳類の増加」が関係しているかもしれないと考えています。
通常、アニサキスの卵が海で孵化すると、その幼虫はエビやカイアシ類などの小さな甲殻類に寄生します。
これらの甲殻類を小さな魚がエサにし、その小さな魚を大きな魚がエサにします。この時点で、わたしたちの身近な魚は既にアニサキスに寄生されていることになります。
そして、寄生された魚を食べることで、人間や、アザラシやアシカ、クジラ、イルカなどの海洋哺乳類に感染します。
アニサキスは人間の体内では数日以上繁殖することも生きることもできません。しかし、海洋哺乳類の腸内では生き続け、繁殖が可能です。
そして腸内で繁殖したアニサキスたちは、糞を介して海中に放出されます。このようなサイクルでアニサキスは増殖していくのです。
もちろん、このサイクルの過程で繁殖前に死んでしまうアニサキスも多いので、通常は爆発的に増加することはありません。
しかし、繁殖地となる海洋哺乳類が増加するなら、アニサキスの数も必然的に増えていくでしょう。
1972年以来、海洋哺乳類は保護法の下で保護されるようになりました。結果、海洋哺乳類の成長と増加が促進されてきました。
ここで、「海洋哺乳類保護法がアニサキス増加に寄与した」という仮説が浮かびます。
ウッド助教は「アニサキスの増加は海洋哺乳類の増加と同じ期間に発生したため、これはもっともらしい仮説である」と述べています。
海洋哺乳類の保護法は、海洋哺乳類の全体数を増加させています。しかし、それらがアニサキス等の寄生虫の増加も助長しているなら、当然、感染リスクも激増します。
結果として、感染に弱い「脆弱な絶滅危惧種」の回復が困難になっている可能性があります。
「保護のための人為的介入」が、生態系の変化をもたらし「保護対象を弱める」というジレンマが生じているかもしれないのです。