0歳になった110歳の細胞と、0歳になった43歳の細胞を比べる
細胞の万能化が完了すると、研究者は次に、万能細胞から各臓器の臓器幹細胞を作ることに着手しました。
最初に作られたのは間葉系前駆細胞と呼ばれる細胞で、この細胞は骨、軟骨、脂肪などへと分化する能力を持っています。
また今回の研究では110歳の万能細胞と比較するために、早老症とよばれる老化が異常に早く進行する8歳の子供の細胞の万能化も試みられ、同じように間葉系前駆細胞へと再分化が行われました。
両者を比較した結果、万能細胞化においては目立った違いがみられませんでした。
しかし、再分化された間葉系前駆細胞では110歳の細胞は問題なく若返ったままである一方で、8歳の早老症の細胞は、既にかなりの老いがはじまっていました。
残念なことですが、早老症の症状は非常に強力であり、細胞の再プログラムを経ても症状が残存し続けることがわかりました。
これは110歳を超える人間の細胞を素材にした最初の重要なデータではありますが、早老症の高い難治性を予想させる結果になりました。
また今回の研究では、より一般的な医療データを得るために、健康な43歳の人間の細胞との比較も行われました。
万能化を経て共に若返ることで、0歳になった110歳と、0歳になった43歳の細胞を比べるという、非常に面白い実験が可能になりました。
これは、異なる年齢の細胞を、年齢を気にせず同じ土俵で比べられることを意味します。
研究者の発想には驚かされるばかりです。
結果、110歳を超える人間の細胞は、普通の人間の細胞とくらべて糖の代謝と脂肪の代謝能力が緩やかであることが示唆されました。
カロリー制限が健康にいいという事実は、よく知られた結果でありますが、それがこのようなユニークな比較によっても明らかになったことは、非常に意義深いと考えられます。