- これまでにない高い解像度で、クエーサーの中心から放たれるジェットの様子が観測された
- ジェットは誕生間もない状態で、星間ガス雲と衝突して激しく揺さぶっている
- これは銀河のガス流出の手がかりで、銀河の進化を理解するために重要となる
初期の銀河クエーサーでは、予想より星形成が抑制されているという問題が存在します。
その原因は、クエーサーが星の材料となる星間ガスを銀河外へと流出させていることだと考えられています。
原因となる現象は、クエーサー風やクエーサー津波など観測されていますが、厳密なメカニズムはまだ完全に解明されていません。
地球から比較的近い銀河を観測した場合、星間ガスを押し出すのに一役買っているのは中心核のブラックホールが起こすジェット噴出です。
クエーサーでもジェット噴出の影響は大きいと考えられますが、遥か彼方の天体であるクエーサーで、ジェットが星間ガスに与える影響はまだ十分に理解されていません。
クエーサーは初期の銀河の姿であり、銀河形成、進化を知るために重要な天体です。
今回の研究では、日本の天文学者チームが、アルマ望遠鏡を使って地球から110億光年離れたクエーサーで起こるジェットを、高解像度で観測することに成功したと報告しています。
この研究は、近畿大学、東京大学など複数の大学、及び国立天文台、台湾中央研究院の研究者によるチームから発表され、論文はアメリカの天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に2020年3月27日付で掲載されます。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab7b7e
視力9000相当の観測
今回観測が行われたのは、クエーサー「MG J0414+0534」です。
クエーサーは中心の超大質量ブラックホールの降着円盤が、あまりに眩しい輝きを放つため、まるで一個の恒星のように見える銀河です。
クエーサーは非常に遠方の宇宙に見える天体で、若い銀河の姿とされています。
遠い天体の距離は、観測される光の伸び(赤方偏移)の量から推定されます。これは宇宙がどの様に膨張しているかを予想する宇宙モデルの、どれを採用するかによって計算結果が変わってきます。
さらに宇宙モデルを特徴づけるパラメータは毎年のように更新されているので、同じ天体でも研究によって距離の計算が異なったりしますが、今回の研究では、プランク衛星から得られたパラメータを用いて、地球との距離は110億光年としています。
これだけ遠いと普通に見るということは不可能です。そのため観測には重力レンズ効果が利用されています。
これは目的のクエーサーと地球の間に、巨大な重力を持った銀河などが存在することによって、光が虫眼鏡のように曲げられて地球に拡大されて届く効果です。
このため、観測されたクエーサーは4つに分裂して見えています。
この天然の望遠鏡たる重力レンズと、アルマ望遠鏡の観測を組み合わせることで、今回の観測はクエーサーを非常に高い解像度で観測することに成功しました。
アルマ望遠鏡の解像度は0.04秒角ですが、重力レンズ効果と合わせるとその解像度は0.007秒角になるといいます。
「秒角」という単位は馴染みが無いかもしれませんが、これは角度を時計の秒針に合わせて分割した単位で、1秒角は3600分の1度を表しています。もちろん「分角」という単位もあって、この場合60分の1度が1分角です。
そして、私たちの視力1とは、1分角が認識できる能力を指しています。よく視力検査でC型のランドルト環を見せられますが、あれは1分角の隙間が認識できているかを測っているんですね。
この私たちの視力に直して考えると、今回の観測はなんと視力9000相当で110億光年先のクエーサーを見ていることになるのです。
こうして、研究チームは遥か遠方にあるクエーサーの超大質量ブラックホールが放つジェットと、周囲にある星間ガス雲の衝突する様子を、これまでになく高い解像度で観測することに成功したのです。