驚異の光格子時計
原子時計はみな、原子や荷電粒子が放つ電磁波の周波数を使って時間を測ります。
時計は振り子が左右に揺れてチクタクと時間を刻みますが、この振り子の振動数を原子の振動数に置き換えたものが原子時計です。
周波数と振動数は言い方が違うだけで同じものです。原子の振動の方が、時計の振り子などより遥かに細かいので、古時計なんかより、もっとずっと細かい時間を測ることができるのです。
このセシウム原子時計の精度を上げる方法として、これまで考えられていたのは、絶対零度近くまで荷電粒子を冷やして捕まえ、正確な振動数を測定しようというものです。
ただ、量子レベルのこうした測定には不確かさがつきまとうため、正確な振動数を得るために100万回測定を繰り返すというやり方をします。これはイオントラップ法と呼ばれています。
この場合18桁精度の時間測定に10日間もかかってしまいます。
香取教授たちは、そんな筋道の立てられた方法を改良していくより、もっと飛躍した方法を考えました。それは100万個の原子を集めて1回だけ計測すればいいじゃないか、というものでした。
このために、光格子時計は、魔法波長と名付けられた特別な波長のレーザーを使って卵のパックのような原子の入れ物を作り出し、そこに絶対零度近くまで冷やしたストロンチウム原子を収めていきます。
この原子を全て同時に計測するのです。
この研究は、最初1000個の原子を捕まえて測定するところから始まりましたが、それが徐々に数を増やして精度をあげていき、今回の成果に繋がったのです。
実はムラのある重力
重力の影響とか、時間とかそんなに細かく測る必要なんてあるの? と一般人目線では考えてしまいますが、実は重力は日本の中だけでもかなりのムラがあります。
鉱床のような密度の高い物体が地下にあれば、地上の重力は増加します。また、活断層のように不連続な地層では、その両側で密度が変わるため、やはり地上の重力に差が生まれます。
こうした作用によって、例えば沖縄で1kgだった金が、北海道に持っていくと1g重くなるということも起こります。
このため、重力の微細な変化を測定できれば、地下資源などを地上から推測できたり、マグマの活動の変化を感知できたりするようになるのです。
他にも現代の技術は、実は一般相対性理論の時間の伸びに頼って機能しています。
例えばみんなよく利用しているスマホの位置情報や、カーナビなどのGPS機能は、GPS衛星が地上と他の衛星との間で生じる一般相対性理論による時間のズレを計算することで、対象の地上の位置を導き出しています。
思わぬところで重力と時間のズレは役に立っていたりするのです。
私たちがもう生活からは切り離せないようなところにも、こうした技術が役立っているとなると、そんな細かく時間を測ってどうするの? とは言えなくなりますね。
この成果によって、今後は1秒の定義さえ変わるかもしれません。