生物の不思議な能力の一つに「磁覚(磁気感覚)」があります。
磁覚とは、地磁気の強さや方向を知覚できる能力のことで、渡り鳥やサケがその代表です。
一方で、磁覚のメカニズムは、ほとんど知られていません。コンパスもGPSも持たない生物が、どのようにして磁覚を働かせているのでしょうか。
今回、オレゴン州立大学(米)の最新研究により、チヌークサーモンは、地磁気を知覚するための磁気レセプターを体内に持っていることが示唆されました。
いったいどのようなメカニズムなのでしょうか。
GPSなしで母川に帰れるサーモンたち
チヌークサーモンは、北太平洋を中心に分布するサケ属の一種です。
個体差はありますが、ふ化後1〜5年を海で過ごしたあと、産卵のため、長い時間をかけて生まれ故郷の川に帰ります。
このとき、母川への帰路を正確にたどる道具として使われるのが磁覚です。
磁覚のメカニズムには、これまで2つの仮説が挙げられています。
1つは、地球の磁気によって誘発される化学反応を通じて、磁場を検出しているという説。もう1つは、チヌークサーモンの体内に磁気レセプターが存在するという説です。
中には「両方が混ざり合っている」という意見もありますが、問題は磁気レセプターの特定が困難だということでしょう。存在したとしても、極小でまばらにあると思われるため、ピンポイントでの特定はほぼ不可能です。
そこで研究チームは、チヌークサーモンに磁気パルスを当てることで、磁気レセプターの存在を間接的に調べる方法を採りました。