虫垂は「感染症の予防」に役立っていた
2016年のオランダの研究によると、虫垂は免疫系で重要な役割を果たす「リンパ球」に覆われていることが判明しています。
リンパ球は白血球の一部であり、さらにB細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK(ナチュラルキラー)細胞などに分類できます。
そして、ヒトの虫垂は、B細胞とT細胞を介した免疫反応にかかわり、感染症の予防に一役買っていることが示唆されたのです。
B細胞は、体内に侵入してきたウイルスや病原体に対する抗体をつくり、T細胞は、自ら動いて異物の排除に努めます。
また、ミッドウェスタン大学の研究(アメリカ)では、533種の哺乳類における虫垂の有無と、ほかの消化管や腸内環境との関連性が調べられています。
その結果、虫垂の機能の一つとして、白血球を消化管に存在する抗原(ウイルス・病原体)にさらし、局所的な免疫反応を促すことが判明しました。
さらに、ヒトの虫垂は数種類の腸内細菌叢を育み、一種の「安全地帯」として働いているようです。
これにより、ひどい下痢症状や、強力な経口薬の服用後に起こる腸内細菌叢へのダメージを修復し、細菌を再増殖させることが可能です。
ウィンスロップ大学病院(アメリカ)の研究では、虫垂のない患者は、「クロストリジウム・ディフィシル腸炎」の再発率が通常の4倍高いことがわかっています。
この病気は、腸内に少数生息するクロストリディオイデス・ディフィシル細菌が異常増殖するために起こる大腸炎です。
虫垂は、その異常増殖を抑えて、腸内環境を整えていると見られます。
しかし、虫垂がそれほど重要ならば、盲腸もとい「急性虫垂炎」はなぜこれほど頻繁に起こるのでしょうか?
これについて、デューク大学医療センター(米)の免疫学者、ウィリアム・パーカー氏は「工業化社会に伴う生活環境の変化が原因」と推測します。
「奇妙にも、衛生状態が極端に改善されたことで免疫系の機能が大きく低下し、虫垂が感染症にかかりやすくなった」と同氏は指摘します。
また、急性虫垂炎は、暴飲暴食や不規則な生活リズム、過度なストレスが原因にもなるため、現代人はますます「盲腸」にかかりやすくなっているのです。