ラバーペンシル錯視の謎は深い
ポメランツ氏の理論はラバーペンシル錯視のメカニズム解説の重要な部分ですが、科学者たちは「完全な回答には至っていない」と考えています。
そして、この点を解明するため様々な研究が行われてきました。
例えば2007年に行われた研究で、鉛筆の動きを追跡するように眼球を動かしたところ、鉛筆は「より硬く見えた」のとのこと。
これは網膜が取得する画像に変化を与える手法であり、「網膜が取得する画像がラバーペンシル錯視を引き起こす」というポメランツ氏の理論を支持する結果となりました。
しかし、別の実験は「他の要因もラバーペンシル錯視に関係している」という科学者たちの主張を支持するものとなりました。
その実験では鉛筆の背景がラバーペンシル錯視の有無に影響を与えると判明。
背景だけが動くとラバーペンシル錯視が起こり、背景と鉛筆を一緒に動かすとラバーペンシル錯視が起きなかったのです。
もし、ラバーペンシル錯視が網膜で取得した画像だけを要因として発生するのであれば、背景の動きには影響されないはずです。特に後者ではラバーペンシル錯視が発生するはずなのです。
つまりこの結果は、ラバーペンシル錯視が目だけではなく、脳の処理によっても生じていると分かります。
パラパラ漫画の一枚一枚のページだけでなく、その編集の仕方にも問題があったのですね。
結果として、現在でも、科学者たちは「鉛筆が柔らかく見えるメカニズム」を大まかには解説できますが、完全な回答を提出できていません。
それでも、イギリス・ダラム大学の心理学者ロア・タラー氏は、科学者たちが次のことだけは認めていると述べます。
「人間の脳は、できる限り最善を尽くします」
鉛筆が柔らかく見えるのは、脳が最善を尽くそうと頑張っている結果なのかもしれませんね。