筋細胞を3次元で培養
私たちが普段「肉」として食べている部位は、大方が筋肉組織です。
そのため、培養肉をつくるには筋肉組織を再現する必要があります。
チームはまず、「筋芽細胞」という筋繊維の元となる未熟な細胞を培養して増やし、これを原料として使いました。
筋芽細胞を集めて成熟させると、隣り合う細胞同士が融合して、細長い筋管に変わります。
そこから成熟がもう一段進むと、「サルコメア」と呼ばれる縞状の筋線維が出来上がります。
ミンチ肉は筋繊維がランダムなので噛みごたえはありませんが、サルコメア構造をもつステーキ肉は、程よい弾力と食感が生まれます。
さらにチームは、これをサイコロ状のステーキ肉にするべく、「3次元筋組織培養」を行いました。
3次元筋組織培養は、足場を用いて筋細胞を立体状に培養する方法で、プレート上の2次元培養に比べ、より生体に近い状態に置かれるため、筋組織の成熟も早くなります。
本研究では、コラーゲンゲル(コラーゲンと水分からなる支持体)を用いた2種のモジュール(足場)を交互に積み重ね、それぞれに筋芽細胞を流し込んで、立体状に培養させました。
その結果、長さ1センチ、幅0.8センチ、高さ0.7センチの大型筋組織の作製に成功しています。
また、食紅で赤く染めたところ、食欲をそそるリアルなステーキ肉が再現されました。
こうした培養肉は、採取された少量の細胞を何倍にも増やしてつくられるため、食肉用の家畜を減らしたり、畜産に伴うメタンガスの排出を大幅に削減できます。
加えて、人工肉の培養は、徹底的に衛生管理された無菌室で行われるため、食中毒の発生を抑え、従来の食肉より安全に食すことが可能となります。
その一方で、大量生産によるコストや技術面、あるいは、人工肉を食べることの抵抗感など、実用化にはまだまだ問題が山積みです。
果たして、人工肉が食卓の仲間入りをする日はやってくるのでしょうか。