菌の力で木材の「発電力」を高める
木材を使って圧電効果を発生させるアイデアは、1940年代から議論されてきました。
圧電効果とは、固体に圧力を加えることで生じる内部の「ひずみ」によって、電圧が発生する現象です。
具体的には、固体の結晶内にあるイオンの位置が圧力によって大きくずれ、結晶の一方の端がプラスの電荷を、もう一方がマイナスの電荷を帯びて(=電気分極)、電圧が発生するという仕組み。
しかし、これまでの実験によると、木材の圧電効果は微々たるものでしかなく、実用化の可能性もゼロに近いとされていました。
そこで研究チームが、木材の圧電効果を高める方法として着目したのが「菌」の利用です。
研究チームは「コフキサルノコシカケ(学名:Ganoderma applanatum)」という木材腐朽菌の一種をバルサ材に付着させて、数週間放置しました。
腐朽菌のはたらきにより、木材に含まれる難分解性のリグニン、セルロース、ヘミセルロースが急速に分解され、最終的にほぼ半分の量にまで減少しています。
さらにチームは、木材の強度を失わせることなく、圧縮性だけを高めるのに最適な処理期間が6週間であることを特定しました。
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こうして、圧力を加えたときのプレス&リリースの効果が高まり、従来の約55倍の電圧を発生できる木材が得られています。
チームはその後、木材を15ミリ四方のキューブ型に切り分け、9ブロックをワンセットとして試作品の「エネルギーフロア(発電床材)」を組み立てました。
実験での発電量はわずか0.85ボルトと実用化にはまだ程遠い数値でした。
しかし、研究主任のインゴ・バーガート氏は「本研究はエネルギーフロア開発のほんの一段階であり、その可能性は十分に示すことができた」と話します。
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研究チームはすでに、エネルギーフロアが発電分野で大きな利益を生み出すことを想定し、商業化について企業と話し合いを進めているとのことです。
今後の改良次第では、自宅の床材やダンスフロアなどに応用されるかもしれません。