巨大地震の「予測マーカー」になり得る
チームは当初、スマトラ島の西方150キロに浮かぶ「シムルエ島」のサンゴ礁を対象に、過去の海面レベルを調査していました。
サンゴは、海面や海抜の高さを目に見える成長パターンで記録することで知られます。
ところが、サンゴのデータとプレートの動きのシミュレーションを組み合わせた結果、予想外の過去が浮き彫りになりました。
なんと1829年から、巨大なスマトラ島沖地震が発生した1861年にかけ、シムルエ島の南東側プレートがゆっくりと海に沈み込むことで、スロー地震が発生していたのです。
スロー地震は「スロースリップ現象」とも呼ばれ、通常の地震によるプレートの滑り(スリップ)よりずっと遅いスピードで持続的に発生する滑り現象のこと。
海溝などの沈み込み帯ではよく見られ、継続期間が数日のものを「短期スロースリップ」、数ヶ月〜数年のものを「長期スロースリップ」といいます。
しかし、その大半がせいぜい数ヶ月単位であり、32年という長さは前例がありません。
調査を進めた結果、このスロー地震は、2つのプレートが接する浅い部分のストレスを和らげていたものの、それがより深い部分に蓄積し、1861年の巨大地震につながったことが示されました。
この時の地震はマグニチュード8.5に達し、大規模な津波を発生させ、数千人の死者を出しています。
同チームのアロン・メルツナー氏は「今回の結果は、将来的な大地震の予測に役立つものです。
現在の地震リスク評価モデルでは、大規模な壊滅的地震を予測するための重要な指標を見逃している可能性がある」と指摘します。
さらなる調査の結果、スマトラ島の南西100キロに位置する「エンガノ島」で、別のスロー地震がすでに進行している可能性が浮上しました。
メルツナー氏は「この予想が正しければ、エンガノ島の近くに住むコミュニティは、これまで考えられていた以上の地震や津波に直面する危険性がある」と述べています。
これは日本も他人事ではありません。
いつ起こるとも知れない大地震に備え、予測マーカーとしてスロー地震に注目するべきでしょう。