乳酸は海馬の神経細胞をサポートしていた
記憶やうつ病に関与する脳の領域「海馬」では、「神経発生」と呼ばれる生理現象が起こっています。
これは新たな神経細胞を生み出す現象であり、脳の形成や発達には欠かせません。
通常は胚や胎児期に最も活性化し、成長と共に神経発生量は減少していきます。
ところが海馬などの一部の領域では、成体脳になっても神経発生が続いており、「神経細胞を交換」してくれます。
そしてうつ病患者は、「成体海馬の神経発生」機能が低下することで知られています。
つまり、うつ病患者の海馬では、神経細胞の入れ替わりが十分に行われていないのです。
一部の患者に見られる海馬の体積減少は、この機能低下が原因だと考えらえています。
そこでチームは新しい研究で、乳酸が神経発生を回復させ、マウスの抑うつ行動に影響を与えるか実験しました。
その結果、乳酸が成体マウス海馬の神経発生減少を改善すると判明。
新しい神経細胞の生存と増殖に対する阻害効果を逆転させることができたのです。
また、そもそも神経発生自体がなければ、乳酸による抗うつ作用が起こらないことも確認できました。
つまり今回の研究で、乳酸と神経発生が抗うつ作用と密接に関わっていると判明したのです。
またチームは乳酸の代謝について調べ、その際に生じる補酵素NADHが神経発生を保護することも発見しました。
とはいえ、この結果をうつ病治療に役立てるためにはさらなる研究が必要です。
今後研究チームは、NADHが作用するタンパク質の特定に力を注ぎます。