知られていないアルコールの悪影響に対する性差
1990年代まで、アルコール使用障害といえば、男性の病気というイメージが強かったため(実際男性の方が多かった)、アルコールに関する研究はほとんどが男性を対象としていました。
しかし、近年女性の飲酒量が男性と同程度になってきたため、女性に与えるアルコールの影響というものも調査されるようになってきました。
その結果判明したのが、アルコールが体に与えるダメージは、男女不平等であるということです。
一般的に女性は、同じ体重の男性に比べてアルコールを溶かすための体内水分量が少ないといわれています。
そのため、同じ量のお酒を飲んだとしても、血中アルコール濃度は男性より高くなり、結果体の組織がより多くのアルコールにさらされることになります。
その結果は、どうなるでしょうか?
米国マサチューセッツ州マクリーン病院の心理学者ドーン・シュガーマン(Dawn Sugarman)氏は、「より少ない飲酒年数で、女性の方が早く病気になる」と説明します。
アルコールが与える体のダメージは、二日酔いや酔いつぶれから始まり、肝疾患、心血管肝疾患、特定のがんリスクの上昇などがあります。
アーロン・ホワイト氏らの研究によると、2006年から2014年までのアルコール関連の救急外来の男女の割合は、男性が58%だったのに対して、女性は70%に増加していると報告しています。
また、別の論文では2009年から2015年までのアルコール関連の肝硬変の発生率は、男性30%に対して、女性は50%であると報告されています。
「こうした事実は、ほとんど世の中に伝わっていません」シュガーマン氏はそのようにこの問題を危惧しています。
シュガーマン氏は、研究の一環としてアルコール使用障害に悩む女性たちに、アルコールが与える影響が男女間で異なることを教えましたが、彼女たちの中には治療を20回以上受けていながら、そんな情報は初めて聞いたという人が多かったそうです。
このためシュガーマン氏やその仲間の研究では、アルコール使用障害の治療に関するプログラムでは、ジェンダー特有の要素を考慮して行ったほうがより効果が高いという結果が得られたとのこと。
なぜ、女性の危険な飲酒が増えているかについては、まだ明確な答えは出ていませんが、10代の若年層では女性の方がうつ病、不安障害、摂食障害の割合が高いことが関連している可能性があると考えられています。
また、新型コロナによるパンデミックの影響も見られていて、ある調査ではパンデミックでストレスや不安のレベルが高いと答えた人たちはアルコール使用が増加していました。
そして、その中でも特に飲酒量が増えたと回答した人には女性が多かったと報告されています。
このため、女性はストレスが増加した場合に、飲酒で対処する人が多い可能性もあります。
こうした問題については、アメリカの方がより先進的で、問題意識が強く研究が進んでいるようですが、最近は日本も手軽に酔える缶チューハイなどに人気が集まっています。
全体的に飲酒する人は減っているといわれていますが、家で手軽に酔える手段が増えてきたことで、過剰な飲酒をする人は逆に増えているのかもしれません。
また、そうした割合が女性で増えていることや、女性の方がアルコールの悪影響を受けやすいという報告は心配な話題です。
身近に、最近やばい飲み方してるなあ、と感じる女性がいたら注意してあげたほうがいいのかもしれません。