骨ではなく、神経を打っていた
先に答えを言ってしまうと、ファニーボーンは肘の骨ではなく、神経を打つために生じます。
その神経を「尺骨神経(しゃっこつしんけい)」といいます。
尺骨神経は、背骨から首を通り、肩〜肘まで伸びる上腕骨を経て肘をまわり、尺骨(下腕の小指側の骨)と橈骨(とうこつ、下腕の親指側の骨)を過ぎて手首に至る神経です。
尺骨神経は、指先から脳へ情報を伝達する役割を担っています。
特に、小指と薬指の感覚を認識したり、手の動きを制御したりする部位として重要です。
神経の大部分は骨や筋肉、脂肪によって守られていますが、ちょうど肘を曲げた辺りで「肘部管(ちゅうぶかん)」という細い管を通ります。
肘部管は、肘の内側にある骨と靭帯・筋肉の膜でつくられるトンネルのこと。
この部分は浅いところにあるので、肘を曲げると尺骨神経が引き延ばされ、皮膚側に露出します。
そこに何か硬いものがぶつかると神経に刺激が伝わって、ビリッとかビィーンといった痺れが発生するのです。
場所でいうと、肘の折り目の延長上に現れる小さな骨の出っ張り辺りで、痺れはそこから手首にかけて起こります。
では、この痺れ現象が「ファニーボーン(Funny bone、おかしな骨)」と呼ばれるのはなぜでしょう?
これは、痺れが起きる「上腕骨」を英語で「humerus(ヒューメラス)」ということに由来します。
humerusは、発音的に「おかしな」を意味する「humorus(ユーモラス)」とほとんど同じです。
つまり、ヒューメラス(上腕骨)からユーモラスを経て、同義語のファニーに転じ、最終的に「ファニーボーン」となったのです。
偶発的にファニーボーンが起こっても、特に問題はありません。
ただし、ファニーボーンを体験しようとして、いたずらに尺骨神経を刺激すると、尺骨神経障害を起こしかねません。
肘を曲げた状態での作業やスポーツを繰り返していると、尺骨神経が骨と摩擦を起こしたり、圧迫されたりします。
これを原因として生じるのが尺骨神経障害です。
最初は小指や薬指の軽い痺れから始まり、悪化すると前腕の感覚が鈍くなって、運動障害を起こすこともあります。
なので、肘をむやみに叩いたり、机や椅子の肘掛に当てたりするのはやめておきましょう。