なぜ「寄生バチの針」を真似するのか?
この針をデザインするにあたり、開発チームはヴァーヘニンゲン大学(Wageningen University & Research)の昆虫学者、Sander Gussekloo氏の協力を仰ぎました。
氏は、寄生バチが宿主に卵を産みつける際の卵管のメカニズムを研究しています。
寄生バチのメスは、草木や地中に隠れている他種の幼虫に針(卵管)を刺して、内部に卵を産みつけます。
卵管の最大の特徴は、柔軟性と機能性に非常に長けていることです。
卵管は、一本のチューブからできているのではなく、「バルブ」と呼ばれる管が3つ合わさって構成されます。
それを宿主に刺すと、バルブの一つが押し込まれ、それに引っ張られる形であとの2つのバルブも中に進んでいくのです。
この構造のおかげで、卵管は直線だけでなく、カーブやS字を描きながら刺すことができます。
そこでチームは、超弾性のニッケルチタンワイヤー(直径0.25 mm、長さ160 mm)を7本使い、1本目のワイヤーの周りに6本を同心円状に配置して、寄生バチの卵管を模倣した針を作成しました。
先端の直径はわずか1.2mmで、世界最薄の針となっています。
7本のワイヤーはスライド式に個別に動き、挿入した媒体との表面摩擦によって自らを前進させることが可能です。
従来の手術針は、たとえばガン細胞のように、除去したい組織を中空の針で吸入しながら進みます。
ところが、これはチューブの詰まりを起こし、先に進めなくなるのが大きな難点でした。
しかし、開発中の針は、ロッドを別々に動かして、外部から挿入の力を加えなくても自動的に媒体中を前進します。
そして、組織を吸入するのではなく、ちょっとずつ切り取りながら進むので、中空内で詰まりを起こすことはありません。
研究主任のPaul Breedveld氏は「すでに緩やかなS字カーブを描きながら媒体中を前進させることに成功しています。
今後は、よりシャープなカーブを可能にし、手術針としての機能性を高めていきたい」と話しています。
また、この針は、体内の深くて届きにくい場所に薬を届けるためのチューブとしても応用できるとのこと。
外科手術を飛躍させる新たな医療器具となるかもしれません。