火星南極の氷冠。この下には氷底湖があるとされていたが…
火星南極の氷冠。この下には氷底湖があるとされていたが… / Credit:NASA/JPL/MSSS
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火星の地下にあると予想された「液体の湖」は、凍った粘土だったという研究 (2/2)

2021.08.02 Monday

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液体の水と同じレーダー反射を示すもの

最近、科学雑誌『Geophysical Research Letters』に発表された別の論文では、火星で一般的に見られる塩である「過塩素酸塩」と混合したとしても、が液体を保つには寒すぎる表面領域で、レーダーの明るい反射が見つかっていると報告しています。

そこで、水と見間違えるような明るいレーダー反射の正体を探ろうという研究が進められていったのです。

アリゾナ州立大学 (ASU) の研究では「粘土、金属含有鉱物、塩水氷」など、似た信号を反射する可能性のあるいくつかの材料が理論的に示されていました。

しかし、今回の研究を発表したヨーク大学のアイザック・スミス氏は、これがスメクタイト(smectite)と呼ばれる火星の至るところで見つかる粘土鉱物ではなかと考え、調査を行ったのです。

スメクタイトは水を含んで膨らむ粘土で、普通の岩のように見えますが、火星ではずっと以前に液体の水を取り込んで形成されています。

スミス氏は、それがレーダー信号とどのように相互作用するか比較する実験装置を作り、いくつかのスメクタイトのサンプルを入れて実験してみました。

また、これを液体窒素に浸してマイナス50℃で凍結してみました。これは火星南極に近い温度です。

凍結したスメクタイトのレーダー反射をテストするアイザック・スミス氏
凍結したスメクタイトのレーダー反射をテストするアイザック・スミス氏 / Credit:York University/Craig Rezza

「実験当時カナダは冬だったので、液体窒素を使った研究室は恐ろしく寒かったです。かなり不快でした」

実験の様子をそう語るスミス氏。公開された写真でも、コロナ対策のマスクに各種防寒具でゴワゴワの状態になっています。

そんな苦労の末、彼はマーズ・エクスプレスのレーダー観測とほぼ完全に一致するサンプルを見つけ出すことに成功したのです。

それは凍ったスメクタイトでレーダーが反射したときの信号で、液体の水のような異常な量の塩や熱は必要とせず、観測されている火星の環境下で自然と存在することのできる物質です。

そして、それは実際火星の南極に豊富に存在していることが確認されています。

火星の南極氷冠の下は粘土の地盤となっていて、明るいレーダー反射はこの粘土鉱物によるものだった可能性が高い
火星の南極氷冠の下は粘土の地盤となっていて、明るいレーダー反射はこの粘土鉱物によるものだった可能性が高い / Credit:ESA/DRL/FU Berlin (top), NASA (bottom).

液体の水が存在していないという結果は非常に残念なものですが、これは火星の地下に液体の水があるという主張より、理論的でもっともらしい説明を提供しています。

スミス氏は最後に次のようなことを語っています。

惑星科学において、私たちは少しずつ真実に近づいていきます。

過去の研究はレーダー反射の正体が液体の水であることを証明していませんが、今回の論文もスメクタイトであることを証明したわけではありません。

しかし、私たちはすべての人が納得する結果を見つけ出すために、できる限り可能性を絞り込もうと努力しているのです」

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