バッテリーのないペースメーカーへ
ペースメーカーは、脈拍が遅くなる病気を抱えた患者さんの治療に使用される発振器です。
これは電池と電気回路を組み合わせたもので、細い導線の先を心臓に取り付けて、一定のリズムで心臓に電気刺激を伝え、心臓の拍動を整えます。
大きさは大体20g程度の小さなものです。
本体は皮下に埋め込んで使用されますが、電池で駆動しているため、電池の寿命が来る5~10年ぐらいで、電池交換を行う必要がでてきます。
電池交換などは部分麻酔で1時間程度で終わる簡単なものですが、それでもやはりそうした負担はない方が患者さんには好ましいでしょう。
そこで今回の研究者、上海交通大学の易志然(Yi Zhiran:イー・ジラン)氏は、バッテリーレスのペースメーカーを開発するため、心臓の拍動による運動エネルギーを利用する方法を考えました。
「心臓が動く力が0.5ニュートンの場合、出力電力は約192マイクロワットに相当します。
市販のペースメーカーは、通常10マイクロワット以上あれば十分です」
易氏はそのように説明します。
そのため座屈(ある圧力で変形する性質)を持つ圧電素子を心臓自体につけることで、圧電エネルギーによってペースメーカーの駆動エネルギーを得ることが可能だというのです。
このようなバッテリーレスのペースメーカーは現行のバッテリー式のペースメーカーとは大きく設計が異なります。
バッテリーがなくなることで、埋込み型のペースメーカーは設計における多くの制限から開放されることになるでしょう。
易氏はバッテリーレスペースメーカーは、すでに実現可能な検証段階にあると話しています。
ただ、体内に埋め込んで使う器具である以上、慎重になる必要があります。
研究者は次のステップへ進む前に、生体内での長期安定性、埋め込みの方法、柔軟な圧電素子と硬い基盤部分の統合など、このデバイスの問題点を克服するため、努力しているといいます。
電池交換の不要なペースメーカーが早く実現されるといいですね。