レモンを嗅ぐと動きが遅く感じる?
クロスモーダル現象は、視覚と聴覚を使う映画鑑賞や、味覚と嗅覚を使う料理など、日常の様々なシーンで生じています。
中でも、嗅覚刺激は、香水やアロマセラピーがあるように、クロスモーダル現象の筆頭に挙げられるものです。
一方、嗅覚刺激は実験のための制御や、被験者の感性評価がかなり困難なため、香りを使ったクロスモーダル現象の研究はあまり進んでいません。
そこで研究チームは、新たに心理物理実験やfMRIを用いて、”香りによる映像のスピード感の変化”を心理・生理学的に検証しました。
実験では、被験者の前にスクリーンを設置し、1秒間、レモンかバニラ、あるいは無臭の空気をアロマシューターで射出。
その後、白い点が動くモーションドットを1秒間映し、そのスピード感が速かったか遅かったかを答えてもらいます。
香りの強さは、レモン・バニラが100%・50%の2段階ずつで、モーションドットの速さは7段階あり、休憩を挟みながら、計525回の試験を行いました。
その結果、モーションドットの速さが同じでも、無臭時と比較して、レモンの時はスピード感が遅く、バニラの時はスピード感が速く感じるようになったのです。
これと別に、fMRI装置をつけた状態で、同じ実験をしたところ、香りごとに視覚野(hMT、V1)の脳活動が変わることが分かりました。
これにより、視覚と嗅覚のクロスモーダル現象が、心理・生理学的に実証されたことになります。
香りの伴うクロスモーダル現象は、これまで、記憶や感情といった高次の脳機能との関連でのみ言及されてきました。
しかし、スピード感という低次の感覚との関係が明らかになったのは、今回が世界初のことです。
また、心理学上では、「レモンは速いか、遅いか」という問いについて、大半の人が「レモンは速い」と答えると報告されています。
確かに、さっぱりとして爽やかなレモンはなんとなく速く、反対に、まろやかでゆったりとしたバニラの方が遅いイメージがあります。
こうしたヒトの感覚や情報処理の性質を理解する上でも、今回の結果は大きな助けとなるでしょう。
研究チームは今後、基礎研究だけでなく、VRやエンターテインメント方面にも役立てたいと考えています。