スピード感は、レモンを嗅ぐと遅くなり、バニラを嗅ぐと速くなる
スピード感は、レモンを嗅ぐと遅くなり、バニラを嗅ぐと速くなる / Credit: jp.depositphotos
psychology

「香りでスピード感が変わる」と判明!レモンで遅く、バニラで速くなる

2021.08.20 Friday

私たちの五感は、たとえば、視覚と聴覚、味覚と嗅覚など、互いに影響し合うことがあります。

これを心理学や認知科学で、「クロスモーダル現象」と言います。

今回、情報通信研究機構(NICT)の最新調査により、新たなクロスモーダル現象が発見されました。

それによると、私たちが感じる映像のスピード感は、香りごとに変わるとのことです。

研究は、8月2日付けで学術誌『Frontiers in Neuroscience』に掲載されています。

 

香りでスピード感が変わることを発見 〜レモンは遅い、バニラは速い〜 https://research-er.jp/articles/view/102196
Olfactory Stimulation Modulates Visual Perception Without Training https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2021.642584/full

レモンを嗅ぐと動きが遅く感じる?

クロスモーダル現象は、視覚と聴覚を使う映画鑑賞や、味覚と嗅覚を使う料理など、日常の様々なシーンで生じています。

中でも、嗅覚刺激は、香水やアロマセラピーがあるように、クロスモーダル現象の筆頭に挙げられるものです。

一方、嗅覚刺激は実験のための制御や、被験者の感性評価がかなり困難なため、香りを使ったクロスモーダル現象の研究はあまり進んでいません。

そこで研究チームは、新たに心理物理実験やfMRIを用いて、”香りによる映像のスピード感の変化”を心理・生理学的に検証しました。

実験のイメージ図
実験のイメージ図 / Credit: NICT – 香りでスピード感が変わることを発見 〜レモンは遅い、バニラは速い〜(2021)

実験では、被験者の前にスクリーンを設置し、1秒間、レモンかバニラ、あるいは無臭の空気をアロマシューターで射出。

その後、白い点が動くモーションドットを1秒間映し、そのスピード感が速かったか遅かったかを答えてもらいます。

香りの強さは、レモン・バニラが100%・50%の2段階ずつで、モーションドットの速さは7段階あり、休憩を挟みながら、計525回の試験を行いました。

その結果、モーションドットの速さが同じでも、無臭時と比較して、レモンの時はスピード感が遅く、バニラの時はスピード感が速く感じるようになったのです。

スピード感の変化(中央)、fMRIで観察された脳活動の変化(右)
スピード感の変化(中央)、fMRIで観察された脳活動の変化(右) / Credit: NICT – 香りでスピード感が変わることを発見 〜レモンは遅い、バニラは速い〜(2021)

これと別に、fMRI装置をつけた状態で、同じ実験をしたところ、香りごとに視覚野(hMT、V1)の活動が変わることが分かりました。

これにより、視覚と嗅覚のクロスモーダル現象が、心理・生理学的に実証されたことになります。

香りの伴うクロスモーダル現象は、これまで、記憶や感情といった高次の脳機能との関連でのみ言及されてきました。

しかし、スピード感という低次の感覚との関係が明らかになったのは、今回が世界初のことです。

fMRI実験で使用した嗅覚提示装置
fMRI実験で使用した嗅覚提示装置 / Credit: NICT – 香りでスピード感が変わることを発見 〜レモンは遅い、バニラは速い〜(2021)

また、心理学上では、「レモンは速いか、遅いか」という問いについて、大半の人が「レモンは速い」と答えると報告されています。

確かに、さっぱりとして爽やかなレモンはなんとなく速く、反対に、まろやかでゆったりとしたバニラの方が遅いイメージがあります。

こうしたヒトの感覚や情報処理の性質を理解する上でも、今回の結果は大きな助けとなるでしょう。

研究チームは今後、基礎研究だけでなく、VRやエンターテインメント方面にも役立てたいと考えています。

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