血球数が変化して、感染症にかかりやすくなる
ヨーロッパイチョウガニ(学名:Cancer pagurus)は、ヨーロッパの沖合に広く分布する大型種で、そのエリアはノルウェー水域からアフリカの北海岸線にまで及びます。
ヨーロッパで最も「商業的に重要なカニ」とされ、英仏海峡では年間1万トンが捕獲されているという。
そのため、繁殖や移動が妨害されれば、個体数や食料資源に大きな影響を与える可能性があります。
では具体的に、海底ケーブルによってヨーロッパイチョウガニにどんな変化が起きるのか。
研究チームは、スコットランドにあるセント・アブス海洋ステーション(St Abbs Marine Station)にて調査を行いました。
実験では、60匹のヨーロッパイチョウガニを水槽タンクに入れて、異なるレベルの電磁気を与えます。
研究主任のアラステア・リンドン氏は、次のように説明します。
「海底に敷設されたケーブルは電磁気を放出しています。
調査の結果、500マイクロテスラ以上(冷蔵庫のドアにくっつく磁石の5%ほどの強さ)になると、カニはそれに引き寄せられて、じっとすることが分かっています。
そこで、どれくらいの電磁気の強度で、カニの生理的な変化が起こるかを調べました」
最初に、250マイクロテスラの電磁気を与えてみると、カニの行動や生理に大きな変化はなく、影響も限定的でした。
ところが、電磁界強度を500〜1000マイクロテスラに設定すると、カニの概日リズムが乱れ、総血球数が変化したのです。
より高いレベルの電磁気にさらされるほど、カニの体内の血液細胞の数が変化しており、これは感染症にかかりやすくなるなど、さまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。
また、500マイクロテスラ以上の電磁界は、カニを惹きつけて、動かなくさせていました。
「動かない」ということは、エサを探したり、交配相手を探したりしなくなるということです。
ヨーロッパイチョウガニは、イギリスで2番目に価値のある甲殻類の漁獲物であるため、チームは、この行動変化が漁業市場に害を与える可能性があると警告しています。
スコットランド沿岸部では現在、大規模な海底ケーブルを必要とする洋上風力発電の設置が計画されています。
「イギリス近海に分布するヨーロッパイチョウガニのオスは、スコットランドの東海岸を移動して交配相手を探しに行きます。
もし海底ケーブルの誘惑に抵抗できなければ、彼らはそこにじっとして、繁殖しなくなるでしょう」とリンドン氏は指摘します。
これらの風力発電所がスコットランドのカニの生息数を不安定にしないよう、効果的な対策が必要でしょう。
ケーブルを海底に埋めてしまうのも一つの解決策ですが、これはコストがかかり、メンテナンスも困難になるとのこと。
また、場所によっては埋めること自体できません。
リンドン氏は「エネルギー供給の脱炭素化を図りながら、環境に悪影響を与えないよう、さらなる技術的解決策を検討する必要がある」と述べています。