イヌは「東アジア」で誕生した?
ニホンオオカミ(学名:Canis lupus hodophilax)は、大陸にいたハイイロオオカミの亜種で、かつては日本の各地に分布していました。
ところが、18世紀に入ると、ニホンオオカミは家畜を殺す害獣と見なされ、猟師たちが銃や毒を使って駆除し始めます。
1870年代にはニホンオオカミの撲滅が国策となり、やがて1905年に最後の個体が死んで、絶滅が公式に宣言されました。
生きた標本がないため、研究チームは、日本やヨーロッパの博物館で保管されているニホンオオカミの骨や体組織からDNAを抽出。
解析データを、他種のオオカミやイヌ、キツネのDNAと比較しました。
その結果、ニホンオオカミは、2万〜4万年前の間に出現し、オオカミの中でもユニークな進化を遂げた系統に属することが判明しました。
データによると、ニホンオオカミとハイイロオオカミは、東アジアのどこかにいたと思われるオオカミを祖先とした単一種から生まれたと考えられます。
さらに、その子孫の中には、ニホンオオカミに進化したグループと、イヌに進化したグループがあることも分かりました。
これにより、イヌはヨーロッパや中東ではなく、東アジアで最初に進化したという説の信憑性が高まっています。
研究を主導した寺井洋平氏は、次のように述べています。
「進化系統樹を組み立てたところ、ニホンオオカミを含む系統は、他のどのグループよりも今日のイヌの系統に近いことが分かりました。
それは姉妹のような関係性であり、他種のオオカミとは一線を画しています」
また、ニホンオオカミとのDNAの共有率を調べた結果、シェパードやラブラドール・レトリーバーといった西欧圏の犬種とは、ほとんど共有していませんでした。
しかし、日本の柴犬や、オーストラリアのディンゴ、ニューギニアのシンギング・ドッグなどは、最大で5.5%のDNAを共有していたのです。
これは、ニホンオオカミとの交配があった事実や、彼らが日本を縦断して、オーストラリア圏にまで移動したことを意味します。
それでも、最初のイヌが、いつどこで、どのように家畜化されたかについては解決されていません。
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(SUNY)の進化生物学者、クリシュナ・ヴィーラマー(Krishna Veeramah)氏は、2017年に、こう答えています。
「オオカミと明確に区別できる最古のイヌの遺骸は、約1万5000年前のものです。
イヌの家畜化は、何世代にもわたる非常に複雑なプロセスだったでしょう。
現在の仮説では、世界のどこかにいたオオカミの集団が、狩猟採集民のキャンプの外れに住み、人間が出した余り物を漁るようになったと考えられています。
この集団はもともと、大人しくて攻撃性が低く、人と争うこともありませんでした。
人間は当初、彼らから利益を得ることはありませんでしたが、時が経つにつれて、何らかの共生関係を築き、最終的には現在のイヌに進化したのでしょう」
この「世界のどこかにいたオオカミ」とは、東アジアにいた集団だったのかもしれません。