有効な抗生物質を作り出す海洋微生物
海洋放線菌と呼ばれる微生物が生み出す生理活性物質としては、これまでに約28,500種類が確認されています。
その中には多糖類、ペプチド、ポリケチド、ポリフェノール化合物、アルカロイドなど、多様な種類の生理活性物質が含まれています。
これらの物質は、抗菌や抗ウイルス、抗ガンといった強力な働きを持ち、新しい薬のひな型になる可能性を秘めています。
海洋微生物が生産する生理活性物質は、特別な方法で混合物から分離されます。
液体クロマトグラフィーや質量分析、そして核磁気共鳴分光法といった最新の技術を駆使し、その複雑な構造を解き明かしていきます。
これにより、微生物がどのようにして抗菌作用や抗炎症作用を発揮するのかを確認しています。
海洋微生物たちは、驚くべき多様な代謝物を作り出す力を持っています。
彼らは抗生物質や抗がん作用のある化合物、さらには酵素や多糖類まで生産でき、これらは医療や美容、工業分野でも活用が期待されています。
海洋微生物の作る酵素は、陸上微生物の酵素が機能しないような過酷な条件下でも働き、より安定していることが分かっています。
この特性を利用すれば、ヒトの体内で効果を発揮する新しい薬や化粧品が開発されるかもしれません。
さらに、海水はヒトの血漿と化学的に似ているため、微生物が作り出す物質は従来の薬よりも毒性が低く、安全に使用できる可能性があります。
その結果、海洋微生物由来の「天然物」の調査は年々活発になってきており、「海洋微生物」をキーワードにした研究は過去5年間で約400件も発表されています。
広大な海の中に生息する海洋微生物は、私たちがまだ知らない「新しい薬」の宝庫かもしれません。
サンゴや魚、海藻、さらには深海の熱水噴出口や極地にまで広がるこれらの微生物は、過酷な環境下でも独自の進化を遂げ、整理活性物質を生み出しています。
実際、海洋微生物の特性は今までわずか0.01%しか解明されていません。私たちはまだまだ海洋の「秘宝」に手をつけていないのです。
以下、有効な抗生物質として活用される主な海洋微生物の例を紹介します。
ストレプトマイセス属という微生物は、結核菌やグラム陽性菌などに対しても抗菌作用を発揮します。
これは、あの有名な抗生物質ストレプトマイシンを作る海洋放線菌で、タンパク質合成を阻害することによりバクテリアの成長や代謝を停止させます。
また、同じく海洋放線菌であるミクロモノスポラ属は、抗菌作用を持つ新しい化合物を作り出し、グラム陽性菌を退治するその力には、今後の新薬開発にも期待が寄せられています。
最近の研究では、これらの微生物が強力な新しい抗生物質を生産し、その効果が確認されています。
人間の健康にとって、特に厄介なのが抗菌薬に対する耐性を持つ病原性細菌ですが、海洋微生物はこれに立ち向かう力を持っています。
例えば、メキシコで採取された海洋堆積物から、サリニスポラ属(ミクロモノスポラ属に近い種)の海洋放線菌が発見され、これらの細菌たちは、薬剤耐性菌であるESKAPE病原体(ほとんどの院内感染の原因となる重要な細菌種)に対して強力な抗菌力を示しました。
また、ストレプトマイセス属から作られたチオペプチド系抗生物質は、薬剤耐性菌のタンパク質合成阻害剤として使われ、黄色ブドウ球菌まで撃退してしまうという驚きの効能を持っています。
これ、いわゆるスーパー耐性菌を退治する新薬の原石ということです。