日本から新鉱物「アマテラス」を発見
ヒスイは、単なる緑色の宝石ではありません。
主成分は「ヒスイ輝石」と呼ばれる鉱物で、プレート同士がぶつかる「沈み込み帯」という特殊な場所(代表的な場所の一つが、日本列島の深部)で作られます。
これは海のプレートが大陸の下にもぐり込み、高い圧力と低い温度にさらされる場所です。
その極限環境で岩石の中の元素が組み替わり、新しい鉱物が生まれることがあります。
つまりヒスイは、地球の奥で進む化学変化の“タイムカプセル”なのです。
ヒスイのごくわずかな部分には、ストロンチウム(Sr)やチタン(Ti)といった元素に富む微小な鉱物が含まれます。
これまでにも新潟県・糸魚川のヒスイから、蓮華石(Rengeite)や松原石(Matsubaraite)という新鉱物が発見されてきました。
研究チームは今回、岡山県・大佐山地域のヒスイを詳しく調べ、その中にも同じような特徴を持つ鉱物があること、さらにまったく未知の鉱物が複数含まれていることを突き止めました。
その一つが、今回「アマテラス石」として正式に認められた鉱物です。

新鉱物として認められるためには、「既知のどの鉱物とも違う」と証明する必要があります。
ポイントは、①化学組成(どんな元素がどんな割合で入っているか)と、②結晶構造(原子がどんな骨組みで並んでいるか)の両方です。
アマテラス石の理想的な化学式は、Sr₄Ti₆Si₄O₂₃(OH)Clという長々とした化学記号で表されます。
これは特定の金属元素(ストロンチウムやチタン)と酸素、ケイ素、水素、塩素が独特な割合で結びついたもので、これまで報告されたどの鉱物にも当てはまりません。
この事実は、沈み込み帯のヒスイの内部で、想定外の化学反応が起きている可能性を示しています。
文化財として親しまれてきたヒスイが、地球科学の発見の舞台にもなっている——それが今回の成果の魅力です。