左右で目が違うのは「上下方向の獲物」を見つけるため
MBARIによると、イチゴイカは、カリフォルニア州沖のモントレー渓谷(Monterey Canyon)にて、4K高性能カメラを搭載した無人潜水機「ドク・リケッツ(Doc Ricketts)」により撮影されたという。
モントレー渓谷は、アメリカ西海岸で最も深い海底谷(かいていこく)のひとつに数えられ、多種多様な海の生物が集まることで知られています。
イチゴイカが見つかったのは、水深725mのポイントです。
水深200~1000mは「トワイライトゾーン(薄光層)」と呼ばれ、太陽の光がギリギリ届く領域を指します。
いわば、海面と深海の境界であり、この辺りから、いかにも深海生物らしい種が増えてきます。
こちらが、今回見つかったイチゴイカの姿です。
Fresh from the deep!
During a recent deep-sea dive, our team came across one of the most remarkable residents of the ocean’s twilight zone: the strawberry squid (Histioteuthis heteropsis). We spotted this crimson cephalopod 725 meters (2,378 feet) deep in Monterey Canyon. pic.twitter.com/h1von2qZI5— MBARI (@MBARI_News) March 23, 2022
MBARIの上級科学者であるブルース・ロビソン(Bruce Robison)氏は「イチゴイカは、4度の潜水探査で1回は見かけられますが、たくさん存在するわけではない」と言います。
イチゴイカの外套膜(目や触手をのぞいた頭部の膜)は、最大で13センチの長さになるという。
また映像から、片方が小さな黒目、もう片方がカプセルをかぶせたような大きな緑目をしているのがわかるでしょう。
このイレギュラーは組み合わせは、”トワイライトゾーン”という特別な領域にいることで発達しました。
先ほど言ったように、トワイライトゾーンは、海面と深海の境界のような場所です。
そこから上を見上げると深海に届く微かな太陽の光が、下を見ると光のない暗黒の世界が広がっています。
そして上方には、微かな太陽光越しに生物のシルエットが見え、下を見た場合、発光能力によって自ら光を放つ生物が見えるのです。
イチゴイカは2つの目をこうした特殊な環境の上下にそれぞれ向けています。
大きな緑目は、僅かな太陽光越しに微かなエサのシルエットを見ていて、小さな黒目は、暗闇で発光する生物を見ているのです。
これを支持する証拠として、イチゴイカは緑色の目が上を向くように体を傾けて泳ぐことが、これまでの研究で明らかになっています。
つまり、目の違いは、海面と深海のどちらの側でも獲物を見つけられるように発達したのです。
ちなみに、目の違いは生まれつきではありません。
最初は同じ大きさの目を持っていますが、成長するにつれて緑色の目(黒目の2倍近い大きさ)が発達するのです。
光に紛れる「カモフラージュ能力」も備えている
さらに、イチゴイカは、自分の身を守るためのカモフラージュ能力も持っています。
トワイライトゾーンは太陽光がギリギリ届く場所ですから、下側から見ると、イチゴイカ自身もシルエット状に浮かび上がってしまいます。
そうすると、深海の捕食者に狙われかねません。
ところが、イチゴイカの体を覆う黒い斑点は、実は「発光器官」であり、そこに共生する発光バクテリアにより光を放つことができます。
すると、どうでしょう?
イチゴイカの体も光るので、太陽の光に紛れて、下から見えなくなるのです。
こうしたカモフラージュ能力を「カウンターイルミネーション(counter-illumination)」といいます。
トワイライトゾーンには同じ能力を持つ生物が多く、とくに魚は下腹に集中して発光器官を備えています。
つまり、下から見えないようにするためです。
しかし、獲物を見つけるために、左右の目をバラバラに発達させた生物はイチゴイカくらいではないでしょうか。
環境の必要に応じて、生命の潜在能力は予想もしない仕方で開花するようです。