電気で味を強化する原理
明治大学の宮下研究室らの研究チームは、以前より電気刺激によって味覚を制御する方法について研究を行っていました。
その研究成果から、塩味を人間が感じる原理は、食塩(NaCl)が電離した際に生成されるNa+(ナトリウムイオン)に味蕾が反応しているためだと明らかになります。
Cl-(塩化物イオン)は、特に味覚には作用していなかったのです。
Na+にしか舌が反応していないのであれば、陰極(マイナス極)の印加で塩味を生み出す成分を自由に動かすことが可能です。
そこで、宮下研究室では食器に電荷を持たせることで、味の感じ方を制御できるのではないかと考えました。
今回開発された箸デバイスでは、腕時計型のデバイスを通じて箸に微弱電流が流れ、箸先に陰極を印加しています。
また、腕時計型のデバイスは導電性ゴムによって腕の皮膚と接しており、身体の方は陽極の状態にしています。
つまりこのデバイスを装着すると舌は陽極の状態になるのです。
この状態で、箸に摘んだ食べ物を咥えたり、箸を浸したお味噌汁などを口にすると、塩味の成分であるナトリウムイオン(Na+)が、舌が離れるように移動します。
つまり、塩味は感じない状態となるのです。
味を感じなくなるのでは「今回の話と矛盾するのではないか?」と感じますが、ここでちょっとした仕掛けを研究者たちは施しました。
箸先を咥えて回路がつながると、印加していた微弱電流を逆転させるのです。
すると舌からは引き離されていた塩味の成分が、一気に舌へと吸い寄せられます。
明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授は、ナゾロジーのメール取材に対して、このデバイスの効果を次のように説明します。
「これは、もちあげたボールを勢いをつけて地面に投げつけるようなものです」
これにより、私たちはただ食べ物を口にしたときよりも、強いインパクトで塩味を感じることになるのです。
では実際、それはどのくらいの効果を持つのでしょうか?