「悪者を許せない心」は先天的なものだった?
これまでの発達研究でも、生後12カ月以下の乳児に、行動の善悪を評価する道徳的な判断能力が備わっていることは広く示唆されていました。
一方で、道徳的判断ができても、道徳的にふるまえるかはわかっていませんでした。
たとえば、善悪を理解していても、悪いことをする人はいます。道徳的判断力と道徳的行動の実行能力は別問題なのです。
加えて、運動能力が未発達な赤ちゃんでは、道徳的行動を実行できなため、乳児自身が他者に対し、道徳的行動をとれるかどうかは未解明でした。
そこで研究チームは、乳児の視線とコンピュータ画面上で発生するイベントを連動させることで、視線によって画面上の悪者に罰を与えられる新システムを開発。
具体的には、画面に2つのキャラクターが映し出され、片方がもう片方を追いかけ回して、いじめる行動を乳児に見せます。
その後、乳児がどちらのキャラクターに視線を向けるかを測定し、視線を向けられたキャラクターには、上から石が落ちてくるシステムを構築しました。
それゆえ、発話や運動能力がなくても、視線だけで悪者を罰することができます。
このテストを生後8カ月の乳児、のべ120人に実施した結果、多くの乳児が、悪者のキャラクターに視線を向けて罰を与えることが判明したのです。
これは、自分に直接危害が与えられない場合でも他人をいじめる悪者は処罰するという「第三者罰」の能力が、乳児に備わっていることを示します。
この結果を受け、研究チームは「ヒトが進化の過程で道徳的、あるいは正義的な行動傾向を獲得した可能性がある」と述べました。
また、本研究の成果は「ヒトとはいかなる存在か」という永遠の問いに一石を投じ、人間理解を大きく飛躍させると期待されます。
研究主任の鹿子木康弘(かなこぎ・やすひろ)氏は、こうコメントを出しています。
「乳児の道徳性について世界的注目が集まる中、乳児の道徳行動という知見をのべ5年かけて世界に先駆けて実証し、世に成果として出すことができてとても嬉しいです。
本研究の知見により、”ヒトとはどのような存在なのか”ということを皆様に少しでも考えてもらえたらと思います」