骨格を復元し、滑空や運動能力を明らかに
コエルロサウラブスの唯一の化石標本は、1907年から1908年にかけて、アフリカ南東沖に浮かぶマダガスカルで発見されました。
この標本は、それから約20年後の1926年に、ウェイゲルティサウルス科・コエルロサウラブス属の「コエルロサウラブス・エリベンシス(Coelurosauravus elivensis)」として、正式に記載されます。
今回の研究では、このC. エリベンシスの3つの化石を組み合わせて、ほぼ完全な一つの骨格を復元し、今まで知られていなかった形態や運動能力を明らかにしました。
ここでは特に、頭部より後ろの部分ー胴体、四肢、滑空器官である飛膜(patagium)ーに焦点を当てています。
飛膜とは、前脚と後脚の間の脇腹に沿って生えた”膜状フラップ”のことで、ムササビやフクロモモンガに見られるものと似ています。
これまでの研究で、コエルロサウラブスの飛膜は、今日の東南アジアに生息するトビトカゲ属(Draco)と同じように、肋骨から伸びた骨によって支えられていると考えられていました。
ところが、今回復元した骨格を分析してみると、下腹を覆っている「腹肋骨(ふくろっこつ)」から伸びていた可能性が高いことが判明したのです。
つまり、コエルロサウラブスの飛膜は、現代の滑空トカゲよりも、腹部のより低い位置から生えていたと考えられます。
また、コエルロサウラブスは、前脚に鋭く尖った爪を持っていたことがわかりました。
この爪はおそらく、今日のトビトカゲと同様に、滑空中に飛膜をグリップし、飛行を安定させたり、体勢を微調整するのに使われたと推測されます。
さらに、コエルロサウラブスは、木の幹を垂直に移動するのに完全に適した”圧縮体形(compressed body)”をしていました。
加えて、前肢と後肢の長さが同じで、均整が取れており、木の表面に安定して密着できたと思われます。
このことから、コエルロサウラブスは、滑空能力だけでなく、木登りの達人でもあったようです。
以上の特徴は、コエルロサウラブスが、背の高い木々や樹冠を容易に移動できたこと、木から木への安定した滑空ができたことを証明しています。
となると、この史上初の”グライダー爬虫類”を誕生させた原因は、いったい何だったのか?
研究チームは、それが「樹冠の変化だった」と考えています。
地球上に初めて森林ができたのは、デボン紀(約4億1600万〜3億5920万年前)の後期です。
その後、ペルム紀(約2億9900万〜2億5100万年前)に入り、シダ植物に加えて、裸子植物が繁栄しましたが、その前期に当たる「南ウラル世(Cisuralian、2億9800万〜2億7200万年前)」には、森林の樹冠が密集しており、木々の距離が近かったことがわかっています。
そして、この時期までには、樹上性の脊椎動物がすでに存在したものの、どれもグライダー能力は獲得していません。
おそらく、樹冠が密集していたので、木から木へ飛び移る必要がなかったからでしょう。
しかし、その後の約2億6000万年前に、滑空能力を持ったコエルロサウラブスが登場します。
この状況証拠から推察されるのは、森の木々の樹冠の間隔が開いて、空間的に分離し始めたことで、樹上の爬虫類が滑空の必要性に迫られたということです。
つまり、コエルロサウラブスは、樹冠の変化に適応するために、翼のような飛膜を獲得したのでしょう。