野外に回し車を設置するとどうなるのか?
マイヤー氏は、野生動物たちが生息する野外の2カ所に回し車を設置しました。
そして野生のネズミが回し車を利用するのか検証するために、赤外線カメラによって回し車周辺を記録したのです。
ちなみに回し車は、大型の捕食者から小動物を守るために小さな出入り口のある囲いの中に設置されました。
加えて、動物たちを引き寄せるために回し車の近くにエサを配置しました。
そして実験全体で動物が近づいた20万件以上の記録の中から、回し車が動いた時のビデオを分析しました。
その結果、野生のマウス(ハツカネズミのような小型のげっ歯類)、ラット(ドブネズミのような大型のげっ歯類)、トガリネズミが回し車に引き寄せられ、実際にその中で走り始めたのです。
なんと小さなケージに閉じ込められていなくても、ネズミたちは回し車で走りたくなるのです。
最初の2年間の観測で合計1300回ほど回し車が利用されましたが、そのうち1000回をマウスが占めており、偏りが大きいことも分かります。
しかし回し車を利用するのは、マウスを中心としたネズミたちだけではありませんでした。
少数のカエルやナメクジなども引き寄せられ、回し車の中で走る様子が観察されたのです。
なぜカエルやナメクジまでと不思議に思いますが、彼らはエサで引き寄せられただけで、それほど積極的に回し車で遊んでいたわけではないようです。
カエルは単に回し車の回りを飛び回って偶然乗っただけのようで、ナメクジは新しく見つけた表面に興味を持って登ろうとしていたようです。
なんにせよ、回し車は多くの動物にとって人気のアトラクションとなったようです。
またこの実験のあとも約1年半の間、エサは取り除かれた状態で回し車の観察が継続されました。
すると、周囲にエサが無いにも関わらず回し車での走行が78件観察され、そのうち62件はマウスによるものだったのです。
動物たちの訪問回数は大幅に減少しましたが、それでもネズミたちはエサがなくても回し車を利用していたのです。
では、野生のネズミたちは食物の報酬がないのになぜ回し車で走るのでしょうか?
これについて研究チームは、「回し車が好奇心や遊びたいというネズミたちの欲求を満たしている」と推察しています。
ネズミたちは走ること自体に欲求をもつというのです。
これは、ハムスターが「エサ探しの本能を満たすために走る」という考えと合致するように思えます。
動物は、睡眠欲、食欲、性欲にしろ、生きるためにその行為自体を求めるようになっています。
ネズミにとっては、(エサ探しのために)走ることも、自然の欲求の1つなのでしょう。
そのためペットのネズミでも、野生のネズミでも、環境にかかわりなく、近くの「回し車」という道具で「走りたい欲」を存分に満たす傾向にあるのかもしれません。