植物の「悲鳴」はどんな音?
ストレスにさらされた植物は私たちが思っているほど受け身ではありません。
たとえば、害虫に傷つけられた植物は色や香りを変え、近くにいる仲間に危険を知らせて防御力を高めたり、害虫を駆除してくれる天敵を呼び寄せたりするのです。
また以前の研究では、乾燥状態に陥った植物の内部で気泡が破裂する小さな音が検出できることが知られていました。
しかし、ストレスを受けた植物が空気中に発する音(空気音)についてはよく分かっていませんでした。
そこで研究チームは、健康なトマトとタバコの植物を使った録音実験を開始。
まず、ストレスのない健康な植物の音を記録して基準値を得た後、「水を与えず脱水させた条件」と「ハサミで茎を切った条件」を記録しました。
録音は防音された音響室内で行われています。
その結果、健康な植物はほとんど音を立てず、見た目どおり静かに佇んでいましたが、ストレスを受けた植物は、人間の耳では聞き取れないほどの高い周波数でポップ音やクリック音を発していたのです。
それらの音は半径1メートル以上の範囲で検出できました。
具体的な数字を上げると、健康な植物は1時間あたり1回未満の音を出したのに対し、ストレスを受けた植物は1時間に平均11〜35回の音を出していたのです。
特に脱水に苦しむトマトは最も音が大きく、1時間あたり40回以上の音を出しています。
また脱水条件では音の発生プロセスがより明瞭であり、植物が乾燥を始めるとクリック音が大きくなり、さらに脱水症状が極まることで音が最大化し、枯れるにつれて小さくなっていました。
これを言語化するなら、おそらく「のど渇いたなぁ、どなたか水を」→「もう限界だ、死ぬ〜!」→「峠は越えました、さようなら…」となるのでしょう。
こちらが、人間の可聴域でも聞こえるよう調整した実際の植物の「悲鳴」です。
AIは「悲鳴」から植物の種類や病状を特定できた!
さらにチームは、機械学習アルゴリズム(AI)に悲鳴を学習させて、健康な植物・脱水した植物・茎を切られた植物を区別できるか検証。
するとAIは音を区別できただけでなく、その悲鳴を発する植物の種類まで特定できたのです。
健康なトマトと脱水に苦しむトマトの音を80%以上の精度で識別できただけでなく、脱水症状のどの段階にあるのかも約80%の精度で見分けられました。
種類に関してはトマトとタバコの他に、追加で実験した小麦、トウモロコシ、ブドウ、サボテンも正確に識別できました。
この知見は将来的に、農作物の乾燥や病気のサインを「悲鳴」から特定するのに利用できると期待されています。
野生動物たちは「植物の悲鳴」を聞いている?
植物の悲鳴は私たちには聞こえないものの、「昆虫やその他の小動物であれば、3〜5メートル離れた場所からでも普通に聞こえている可能性が高い」と進化生物学者で研究主任のライラック・ハダニー(Lilach Hadany)氏は指摘します。
「植物が常に交流している昆虫や小動物は、コミュニケーションに音を多用します。
ですから、植物がこれらの生物たちに音を使って何らかのサインを送っていると考えても不思議ではないでしょう」
ハダニー氏は「植物が音を発することが分かったので、次の問題は”誰がそれを聞いているか”ということです」と話します。
「私たちは現在、植物の悲鳴に対する昆虫や動物の反応を調べており、(実験室ではなく)完全に自然な環境で生物がこれらの音を識別する能力を持っているかを探っているところです」
今回の発見は、これまでほとんど無音と考えられていた植物の世界に関する常識を塗りかえるかもしれません。