腎臓病を予防できる「1日のアルコール摂取量」は?
これまでの研究で「少量〜中量の飲酒は腎臓病のリスクを低下させる」という結果が多数報告されています。
一方で、大量飲酒が腎臓病に及ぼす影響を調べた研究はごく少数で、一定の見解が得られていませんでした。
そこで研究チームは今回、アルコール摂取量と腎臓病リスクの関連性を評価した疫学研究から11研究(対象人数1463万4940人)を抽出し、メタ分析を実施。
その結果、蛋白尿のリスクは普段お酒を飲まない人と比べて、アルコール摂取量が1日12〜20gだと0.87倍に低下していることが判明。
しかし1日36〜60gになると1.09倍に上昇し、1日60g以上になると1.15倍にまで上昇していました。
単純なアルコール量ではイメージしにくいですが、日本酒1合(約180ml)が含むアルコール量が約20gのため、適度な飲酒量は日本酒換算では1日1合以下、過度な飲酒量は1日3合以上となります。
また日常的に多くの人が嗜んでいる缶ビール350mlだと、アルコール量は約14gです。
なので1日4本以上飲んでいると、蛋白尿リスクは上昇すると言えるでしょう。
「蛋白尿」を放置するとどうなる?
「蛋白尿の発症リスクが上がる」と聞いても、それがどれだけ危険なのかよく分からないかもしれません。
蛋白尿とは一言でいうと、体にとって必要なタンパクが尿の中に漏れ出てしまう症状です。
私たちの腎臓には体内の水分量や濃度を調節して、細胞を働きやすくする役割があります。
そのために血液中の老廃物をろ過して尿を作りますが、腎臓の働きが落ちると、血液中に老廃物が溜まったり、逆に必要なものが尿に混ざって出ていってしまうのです。
中でもタンパクは体の機能にとって大切な成分なので、腎臓が正常であれば尿に混ざることはほぼありません。
しかし腎臓に何らかの異常があると、ろ過部分を通り抜けて尿の中に漏れ出てしまいます。
蛋白尿は腎臓からのSOSのようなものですが、自覚症状はありません。
腎機能が低下し始めると、貧血やむくみ、高血圧を引き起こしますが、そのまま放置すると腎不全の状態に陥り、深刻な場合は人工透析や胃の移植が必要になります。
適度な飲酒で腎機能低下は予防できる
ここまでの事実と連動するように、腎機能低下のリスクについても、アルコール摂取量が1日12〜36gであると0.82倍に低下していました。
この結果を見ると腎機能の保護についても、適量の飲酒はむしろ良い効果を生むと考えられます。
ただ、この分析については摂取量が増加していってもリスクが大きく上昇に転じることはなく、ほぼ横ばいの状態となっていました。
お酒を大量に飲んでも腎機能に影響がないというのは、一般的な理解とはかなり矛盾した結果のように思えます。
これについて研究者は「日常的に1日60g以上のアルコールを摂取している人が少なく、その場合での腎機能低下のリスクを評価した疫学研究もわずかであるため」と話します。
今回の研究は複数の研究報告をまとめたメタ解析研究ですが、その中で1日60g以上のアルコールを摂取する人の腎機能に関して調査したデータはあまり多く含まれていません。
また過度な飲酒をする人については、腎機能よりも別の健康問題の方がより顕著になるため、腎機能の問題が過小評価されがちです。そのため今回のメタ解析では判断することができないようです。
なので研究者は「今後さらなる研究成果の蓄積が必要になる」と述べています。
しかし逆に言えば低量の飲酒を嗜む人に関するデータは多いため、その点においては今回の報告は信頼性が高いといえるでしょう。
今回の研究は、適度な飲酒が蛋白尿と腎臓病のリスクを下げ、過度な飲酒が蛋白尿のリスクを高めることを明らかにした貴重な成果といえます。
研究主任の山本陵平氏は「本研究は最新の大規模研究の結果を統合することによって、大量飲酒が腎臓病に及ぼす影響を評価することがようやく可能になった」と説明。
加えて「研究対象となった11研究のうち6研究は日本人を対象にした研究であり、日本人における飲酒と腎臓病の関係を大きく反映している研究成果と考えられる」と述べました。
「お酒は程々に」飲むのであれば、むしろ完全に飲まないよりも腎臓病の予防に繋がると期待できるようです。