寄生虫が感染アリを長寿でVIPにする方法
いかにして寄生虫「A.brevis」はアリを長寿化・ニート化・VIP化したのか?
謎を探るべく研究者たちは普通のアリと感染ニートアリの血液(体液)を採取し、内部に含まれるタンパク質を分析することにしました。
すると263種のタンパク質が寄生虫から放出され、感染ニートアリの血液に含まれていることが判明。
その多くは機能不明なタンパク質であり、他のどんな生物にも存在しないものでした。
一方、機能が解読できたタンパク質の中で際立って多かったのが2種類の抗酸化タンパク質でした。
過去に行われた細胞レベルの研究では、抗酸化物質には細胞やDNAの劣化を遅くし、生物の寿命を延ばす効果があることが示されています。
また抗酸化物質にはアリの免疫反応を防ぐ効果もあることが知られていました。
そのため研究者たちは、この2種の抗酸化タンパク質は、寄生虫たちがアリの免疫システムを回避するのに加えて、寿命延長効果ももたらしている可能性があると結論します。
このタンパク質により寄生虫はアリの免疫システムから逃れつつアリの寿命を延長させ、キツツキに食べられる確率を高めていたようです。
ですが最も興味深かったのは「ヒドロゲニン様A」と呼ばれるアリ自身の生産するタンパク質の増加でした。
ヒドロゲニン様Aはアリたちの仕事内容やカーストの決定に関与するタンパク質として知られています。
寄生虫はアリの遺伝子に働きかけることで、ヒドロゲニン様Aの劇的な増加を起こし、感染ニートアリの身分を女王を超える超VIP待遇を受けれるように設定しなおしたと考えられます。
つまり寄生虫は自分の生産する抗酸化物質でアリの寿命を延ばし、アリの遺伝子を操作することでアリの社会的身分をあやつっていたのです。
そしてその全ては、アリの寿命のあるうちに最終宿主となるキツツキにアリに感染ニートアリを食べさせる為でした。
働きアリたちに長生きしたいとおもう欲求や働き甲斐を求める心があるかどうかは不明です。
しかし長寿とVIP待遇をもたらしてくれる寄生虫「A.brevis」は個体レベルで恩恵につながるのは間違いありません。
キツツキの襲撃によって命を落とすとしても、周りの働きアリに比べて遥かに恵まれた一生であったと言えるでしょう。
ただ感染ニートアリの存在は、コロニー全体にとって間違いなく負担となります。
感染ニートアリは「働かず食べる準不老の穀潰し」であるだけでなく、女王よりも優先してVIP待遇を受けるため、女王のケアが疎かになりえます。
また感染ニートアリの存在には、コロニーの攻撃性を抑える効果があることが示されています。
余計な負担を抱え込んだせいか、寄生虫による制御が他の働きアリに及んだかは現時点では明らかではありません。
ですが攻撃性の減少は襲撃してきたキツツキを追い返す力を失わせることになるでしょう。
また正常な攻撃性の欠如は縄張り争いに不戦敗をもたらし、社会全体にとって損にもなります。
しかし寄生虫にとっては感染ニートアリを効率よくキツツキに食べさせることが全てであり、コロニーの繁栄はどうでもいいようです。
研究者たちは今後、発見された未知のタンパク質の機能を調べ、感染ニートアリに変化を及ぼす仕組みを1つずつ調べていくとのこと。
個体から搾取する従来型の寄生虫とは違い、寄生虫「A.brevis」は社会全体から搾取する極めて洗練された戦略を進化させました。
寄生虫から宿主の細胞に働きかける種を超えた細胞間制御が実現すれば、虫たちの高度な社会を人為的に操作できるようになるかもしれません。
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