巨大な腫瘍の正体は何だったのか?
女性は元々100キロを超える肥満体型でしたが、ある頃から腹部が異様に膨れてきたことに気づきました。
それでも女性は「単なる太りすぎだろう」とそのまま放置したといいます。
しかし腹部はさらに膨れ上がり、次第に胃酸や胆汁が食道を通って逆流してくるようになりました。
加えて、それほど量を食べていないのにすぐ満腹になったり、便秘や歩行困難、呼吸困難の症状が現れ始めたのです。
さすがにただの肥満ではないことに気づき、超音波検査を受けたところ、右側の卵巣から腹部にかけて巨大な腫瘍が成長していたことが判明しました。
医師の診断の結果、これは「卵巣のう腫(Ovarian cyst)」という病気であることが分かっています。
卵巣のう腫とは卵巣の中に液体や脂肪がたまってしまう症状を指し、専門家によると、アメリカでは10人に1人の女性が経験する普遍的な病気だという。
卵巣のう腫の約90%は良性の腫瘍であり、ほとんどの場合、そのまま放置して何の問題もありません。
大抵は治療の必要なく数カ月で消失し、患者さんも診断を受けない限り、腫瘍に気づかないことが多いといいます。
しかし今回のケースのように、腫瘍が過剰に肥大化して、腹部を圧迫したり、重い鈍痛を引き起こすことが稀にあります。
また腫瘍が破裂すると、鋭い痛みや出血、腹部の満腹感、吐き気や嘔吐、発熱、めまいなども生じるという。
このイタリア人女性の場合、腫瘍の長さが約40センチ、重さ5キロというサイズにまで成長していました。
ただ女性の腫瘍はこれほど肥大化しているにもかかわらず、破裂の兆候はなく、ホルモンバランスや月経周期にも異常が出ていませんでした。
6時間半に及ぶ大手術
それでも腫瘍による強い圧迫のせいで生活に支障をきたす一連の症状が出ていたため、摘出手術が決行されました。
まず腫瘍自体の除去をする前に、腫瘍に穴を開けて内部にたまった約37リットルの液体を排出。
その後に残った腫瘍を取り除き、摘出によって欠損した腹壁の再建手術を行っています。
手術は6時間半に及び、その間に女性は約6リットルの出血とその分の輸血を受けました。
下は手術前に撮影された、腫瘍で膨れた患者の腹部の画像です。(科学雑誌に報告されている実際の画像はこちらから)
結果、手術は無事に成功し、女性は一命を取りとめました。
手術前の体重は約123キロで、BMIは50.5の病的肥満と新出されていましたが、術後のBMIは28.3にまで落ちています。
(日本肥満学会の基準ではBMI18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」とされる)
しかし女性は術後も集中治療室に約30日間入院し、その間に心停止と急性腎不全に陥ったという。
下は手術後の画像。(ぼかしのない科学雑誌の報告画像はこちらを参照)
退院までには約2カ月を要しましたが、手術から2年経った今では「女性は完全に回復し、以前の症状もありません」と医師チームは述べています。
一方でチームは、女性の診断が遅れた原因について「おそらく彼女の社会経済的な地位や教育水準が低かったためであり、腹部の腫れを単なる肥満と思い込んだために、医療機関に助けを求める必要がないと判断してしまったのでしょう」と話しています。
確かに、卵巣のう腫が悪性であるケースは稀であり、手術の必要性もほぼありません。
しかしこの女性のように、腹部の異様な腫れから鈍痛や便秘の症状が現れた場合は、早めの診察を受けた方がいいでしょう。
今回の報告は腫瘍を放置してしまった特殊な症例であり、自己の判断で診察を回避してしまうことの危険を訴えるものです。