コロナ・レインの仕組みとは?
コロナ・レイン自体は10年以上前から知られていましたが、研究チームは2022年3月に改めて、欧州宇宙機関(ESA)の太陽観測衛星「ソーラー・オービター(SolO)」を用いた観測を実施しました。
SolOは観測のために太陽表面からわずか4800万キロ以内にまで近づいています。
これは地球と太陽の距離の3分の1に当たりますが、それでも太陽の灼熱度合いを考えると「わずか」と表現できるほどの近距離です。
そんなSolOの命がけの観測のおかげで、コロナ・レインの詳細なデータが得られました。
太陽表面には非常に強力な磁石を散りばめたような複雑な磁力構造があり、N極の領域からS極の領域へと強い磁力の流れが生じてループ状に繋がっています。
磁力線を目で見ることはできませんが、この流れに沿ってプラズマ(物質)が大量に移動すると、輝くループ構造として観測で見えるようになります。
コロナ・レインは以下のように、磁力線を移動するプラズマがループの上部で崩れるように太陽表面へ落ちていく現象です。
これがまるでシャワーのように見えることから「コロナ・レイン」と呼ばれます。
コロナ・レインは、それが水ではないということを除けば地球上の雨とよく似た物理現象です。
加熱され磁力線に沿って太陽表面から上空へ移動したプラズマは、上昇するにつれて温度が下がり、凝縮することで幅250キロメートルに達する超高密度のプラズマの塊となります。
この巨大なプラズマの火球が、重力に引かれ秒速150キロという猛スピードで太陽表面へ落ちていくのです。
SolOの観測では、このコロナ・レインの塊の最初の超高解像度画像を得るとともに、このときプラズマ塊の真下のガスは加熱と圧縮によって最大100万度まで加熱されていることを発見しました。
そしてこの温度はプラズマ塊が落下する数分間続いていました。
上空から巨大な塊が落下するこの現象は、地球においては雨と呼ぶより流星に似た状態だと研究者は話します。
しかし太陽コロナは地球の大気に比べてはるかに低密度であるため、流星のように大気摩擦によって表面が剥ぎ取られて欠損したり、スピードが落ちたりすることがありません。
そのためこの100万度近くに加熱されたプラズマ塊はそのままの熱と勢いで太陽表面に衝突し、その衝撃が物質を急激に上部へ押し戻し、コロナを再加熱する衝撃波を発生させている可能性が示されました。
これは太陽表面よりはるかに高温なコロナの100万度という高熱がどこからもたらされるかという問題の一端を説明する可能性があります。
ただ、地球ではこうした流星は後方に尾を作るように衝撃を伸ばしますが、太陽表面では複雑な磁場により、プラズマの圧縮された熱やガスがどのように移動していくかを追うことは非常に難しい状態にあるといいます。
そのため研究者らは、こうした太陽の仕組みとプロセスがコロナの温度を高めている要因の一つかもしれないと考えていますが、正確なところはまだ不明です。
研究主任のパトリック・アントリン(Patrick Antolin)氏は「コロナ・レインの仕組みを解明することは太陽物理学にとって大きな前進となる」と説明。
「なぜなら、どうしてコロナが100万℃以上まで加熱されるのかなど、太陽の主要な謎について重要な手がかりを与えてくれるからです」と続けました。
全体が高温ガスからなる太陽は、中心部で核融合を起こして莫大なエネルギーを生み出しています。
中心温度は1600万℃という実感すらできない灼熱になっており、そこで作られた光は約100万年もかけて太陽表面に達するという。
表面に伝わったこのエネルギーが様々な太陽活動を引き起こしていますが、今回のコロナ・レインも含めて、太陽を完全に理解するにはまだまだ多くの調査が必要となるでしょう。