記憶時に無呼吸になると記憶力が低下し、呼吸の頻度を減らすと、間違った記憶が形成される
実験の結果、正常なマウスは、白い箱で電気ショックを経験した後、再び白い箱の中で音が鳴ると、身体を硬直させました。
この結果は、正常なマウスが箱の色と音、電気ショックの関連性を正確に記憶できていたことを意味します。
一方、電気ショックが流れる瞬間に無呼吸状態だったマウスは、箱の色と電気ショックの関連性を記憶できておらず、箱の中で動き回っていました。そして海馬の神経活動においても、その変化が観察されました。
また、呼吸の周期性をランダム(不規則)にしたマウスは、記憶力が向上し、白い箱に入るだけで体を硬直させる過剰な反応を起こしました。
そして呼吸の頻度を減らしたマウスは、電気ショックを経験していない黒い箱の中でも身体の硬直を示し、間違った形で記憶が形成されていました。
これらの結果は、呼吸が記憶を形成する「トリガーの役割」を担っており、無呼吸状態や呼吸頻度の減少により記憶が阻害される、また間違った記憶が形成される可能性を示唆しています。
また、呼吸パターンが不適切であると、記憶や思考などの情報のまとまりを形成しにくく、記憶力の低下につながる可能性があります。
呼吸によるストレス緩和や精神疾患対策などの応用に期待
前回の研究では、息を吸う瞬間に集中力・注意力が途切れ、記憶力が低下することが報告されていました。
そのため、呼吸を上手くコントロールすれば、集中力・注意力を改善し、仕事や勉強などの領域で認知機能を向上させられる可能性が示唆されましたが、前回の研究では呼吸パターンを実験的に操作することが出来なかったため、集中力と注意力の変化が、呼吸パターンとして現れている可能性もありました。
今回の研究では、光遺伝学を用いて、マウスの記憶時の呼吸パターンを操作し、呼吸のパターンによって記憶力が変化するという因果関係を明らかにすることができました。
記憶する瞬間に無呼吸状態になると、海馬の神経活動レベルが変化して記憶力が低下し、呼吸の頻度と周期性を変化させると、記憶が非常に混乱する状況が確認されました。
この結果は、記憶時の無呼吸状態と呼吸頻度の低下が記憶力の阻害につながる可能性を示唆しています。
つまり、重要な情報を記憶すべき場面では、息を吸う、または止めるのではなく、息を吐いた方が良く、また呼吸の頻度を落とすべきではないと言えそうです。
これは新たな呼吸法に基づく記憶術の提案につながるかもしれません。