槍形吸虫の恐るべき寄生サイクル
寄生性の小さな扁形動物である「槍形吸虫(学名:Dicrocoelium dendriticum)」は、狂気じみたライフサイクルを送っています。
まず、地上に散布された彼らの卵は、第一の宿主であるカタツムリによって食べられます。
卵はカタツムリの体内でふ化して幼虫となり、その数は数百〜数千匹に達することもあるといいます。
続いて第二の宿主に移動するため、幼虫たちは粘液の塊に包まれた状態になって、カタツムリに体外へと吐き出させます。
すると、この粘液の塊に引き寄せられて、アリが幼虫ごと食べてしまいます。
アリの体内へと侵入した槍形吸虫の集団は、選ばれた1匹だけがアリの脳を乗っ取り、残りはアリの腹部に留まります。
そして脳をハッキングされて動きを完全に支配されたアリは、ゾンビのごとく自分の意思とは無関係に地上を歩き、細い草の葉をよじのぼって、アゴでピン留めして草にぶら下がり続けるのです。
そして牛や鹿、羊などの草食動物がそこを通るのをジッと待ち、草ごと食べられることで最後の宿主(終宿主)の体内へと侵入します。
ただ残念ながら、アリの脳を操っていた1匹の槍形吸虫は終宿主である草食動物の胃酸によって死んでしまいます。
一方で、アリの腹部にいた残りの集団は特殊なカプセルの中で守られており、胃酸で死ぬことなく、胆管を通って肝臓に入り、そこで血を吸いながら成虫へと成長します。
このとき、槍形吸虫は吸血しながら動き回るため、終宿主は肝臓にダメージを受ける可能性があります。
最後に、大量に生んだ卵を終宿主のうんちに忍ばせて、体外へと排出させ、またカタツムリに食べてもらい、悪魔のライフサイクルを延々と繰り返すのです。
ただこの中で、アリの脳を支配した1匹だけは、仲間の繁栄のために犠牲になっていると言えるでしょう。
ここまでの寄生サイクルは1950年代から解明されていましたが、研究チームは今回、槍形吸虫がアリへの寄生ステージで、より巧妙な戦略を採っていることを明らかにしました。