アリを「夜明け」と「夕暮れ」にゾンビ化させる
チームは今回、デンマーク東部・ロスキレ付近にある森林で、槍形吸虫に感染したアリを調査しました。
実験では、数百匹の感染アリにタグ付けし、一年のうちの連続しない13日間を選んで行動を追跡しています。
研究主任のブライアン・ルンド・フレデンスボルグ(Brian Lund Fredensborg)氏は「アリの体に色と数字の記載されたタグを接着するのには労力が要りましたが、そのおかげで正確な追跡に成功しました」と話しています。

そして感染アリの行動を光・湿度・時間帯・気温との関係で分析した結果、気温によってアリの行動が大きく変化することを発見しました。
具体的には、気温が低いときに特化してアリのゾンビ行動が顕著になり、草の葉にしがみつく行動が急増したのです。
特に1日の気温が低い時間帯である「夜明け」と「夕暮れ」にアリはゾンビ化を起こしていました。
反対に、気温が高い日中には草の葉にしがみつくゾンビ化が見られず、アリは地上の日陰を普通に歩き回っていたのです。
これは高温下で草の葉にしがみつくと、アリが脱水症状などを起こして死んでしまう可能性があるため、槍形吸虫が気温に合わせて行動をコントロールしている結果と考えられます。
※ こちらは感染アリを解剖した画像ですが、苦手な方に配慮してボカシ加工しています。(ボカシなしはこちらから)

他方で、夜明けや夕暮れに限らず、1日を通して気温が低い秋頃には、感染アリが葉っぱに1日中しがみついていることもあったようです。
しかし気温が36度以上になる夏場は、夜明けや夕暮れ時でもアリのゾンビ化が極端に減っていました。
槍形吸虫は明らかに、気温を考慮してアリの行動を調節していると見られます。
また研究者らは、牛や羊の放牧や野生の鹿が草を食べ歩くのは、涼しい時間帯の夜明けや夕暮れであることが多いため、これは理にかなっていると指摘しました。
槍形吸虫はその点も計算に入れているのかもしれません。
チームは次のステップとして、槍形吸虫がどのようにアリの脳を乗っ取っているのかを解明していく予定です。
研究者らは特に、アリを自由に動かすために彼らが使っている化学物質を特定したいと考えています。