検査によって「父親の30%が産後うつだった」と判明
ウェインライト氏らチームが行った今回の調査は、2020年に設立された医療施設「UI Health Two-Generation Clinic」で実施されました。
この施設を利用している母親の許可を得て、合計24人の父親を対象に、産後うつを発症しているかどうかを検査でふるい分ける「スクリーニング(選別検査)」を行ったのです。
この検査には、母親の産後うつを見分ける際に使用される一般的なツールが用いられました。
その結果、30%もの父親が産後うつ陽性だと判断されました。
ウェインライト氏は、以前の研究結果(8~13%)に比べて今回の割合が大きかった原因について、社会的背景が関係していると考えています。
医療施設「UI Health Two-Generation Clinic」を訪れる患者の多くは社会的に弱い立場にあり、人種差別や低所得の問題に直面しています。
今回の参加者のほとんどは、同様の問題に悩まされていました。
そのため、男性の産後うつについては、子供が生まれたことによる責任感の増加や、経済的な面での心労なども関連している可能性があります。
また出産に伴い女性のホルモンバランスが崩れることで、今まで通りのコミュニケーションが上手く行かないなどの問題に悩むケースも考えられます。
しかし、いずれの場合も、男性がこうした問題を他人に相談できるケースは少なく、それが深刻な男性の産後うつに繋がる可能性があるようです。
父親と母親は、個人ではどうしようもない社会構造の中で、必死に働き、育児に取り組んでいます。
そんな中で、父親の産後うつは決して稀ではなく、場合によっては、母親よりも多いかもしれないのです。
そして彼らは、「理想の父親像」「仕事と育児のバランス」といった強いプレッシャーを感じながらも、誰にも相談できないでいるのです。
実際、クリニックを訪れる父親たちは次のようにコメントしました。
「私は配偶者をサポートするためにこのクリニックを訪れました。
だから私自身もストレスを感じていますが、そのことを配偶者に知られたくありません」
本来、産後のメンタルサポートは両親のどちらにも必要ですが、父親は自分を除外してしまう傾向があります。
当然、父親が倒れてしまうなら母親の負担が増加し、「共倒れ」になる確率が高まるでしょう。
こうした問題に無自覚でいた場合、互いにメンタルの弱い夫婦は、出産を機に家庭が崩壊するという最悪の状況に陥ってしまう恐れも考えられます。
これらは、「父親にもサポートが必要」「父親も産後うつの検査を受ける必要がある」といった見方が、もっと社会全体に普及すべきであることを示唆しています。
喜ばしいことに、今回の研究に参加した父親たちの中には、この検査がきっかけでメンタルヘルスのサービスを希望する人がいました。
私たちは子供に対して、「自分の命と健康を大切にしてほしい」と感じています。必要なら「誰かに助けを求めてほしい」とも感じています。
そのことを教えるための最善の方法は、まず「父親と母親が自分の健康を気遣って助けを求める」ことであり、そのためにも「サポートを求めやすい環境をつくる」ことが大切なのでしょう。