奨学金負債があると婚期が遅れる可能性
チームは今回、「仕事と生活についての第二世代調査(JHPS-G2)」で得られたデータを用いて、日本全国における高等教育の在学時点での奨学金情報と、その後の生活状況を比較分析しました。
分析対象としては、高等教育を受けたことのある20〜49歳の男女568名が選ばれています。
調査では具体的に、在学中の貸与型奨学金の利用と、卒業後の婚姻および出産などのライフイベントとの関係性を分析しました。
その結果、奨学金の返済義務が一部の若者の婚期の遅れや子供の少なさに確かに影響している証拠が確認されたのです。
こちらの図は貸与型奨学金の受給と結婚確率との関係性を示したグラフになります。
横軸は「20歳を基点とした経過年数」、縦軸は「未婚率の残存数」、黒線は「奨学金の受給あり」、点線は「奨学金の受給なし」です。
これを見ると、左の男性の場合は、最初の十数年でわずかながら奨学金の受給者に婚期の遅れが見られますが、それほど有意な差ではありませんでした。
一方で、右の女性の場合は、奨学金を借りている人ほど、年を経るにつれて未婚率が有意に高くなっていることが分かりました。
研究者によると、特に2年制の高等教育(短期大学や専門学校)を受けた女性で顕著な婚期の遅れが見られたといいます。
また子供を持つ数にも影響が見られており、こちらも男性では有意な差はなかったものの、女性(特に2年制の高等教育を受けた女性)では、奨学金を借りなかった女性に比べて、子供を持つ数が有意に少なくなっていたとのことです。
他方で、奨学金の受給額が結婚確率に与える影響は検出されませんでした。
その理由までは定かでないものの、以上の結果は、奨学金利用の有無が日本の若者の家族形成に影響を与えることを示した国内初の成果だといいます。
本研究では女性にその顕著な作用が見られましたが、今回はサンプル数が少なかったため、今後さらに多くの奨学金受給者を対象に調べることで、男性でも同様の悪影響が見つかる可能性があるとのことです。
また研究者らはこれを踏まえ、奨学金制度の設計においては、進学・就学環境への影響だけではなく、卒業後の将来的な家族形成に与える影響をも考慮する必要性があると指摘しました。
奨学金制度に関わる問題は、全体的に進学率が増えており、これをカバーするために生じている側面も否めないでしょう。
しかし、家庭の事情や経済的な困窮から仕方なく借りている学生も多く存在しています。
日本社会では今、少子化や晩婚化が問題視されていますが、その解決には奨学金制度の改善も重要となるかもしれません。