低温糖化のスイッチオフに成功!
研究主任で園芸学者のジミン・ジアン(Jiming Jiang)氏は20年以上にわたりジャガイモの研究を続けており、先に説明した「低温糖化」を防ぐ方法を模索してきました。
そしてこのほど、同僚のデヴィッド・ドゥーシュ(David Douches)氏らとの共同研究により、低温糖化を制御するジャガイモの遺伝子を特定することに成功したのです。
ジャガイモの遺伝子解析やタンパク質同定をする中で、「ジャガイモ液胞インベルターゼ遺伝子(VInv)」のひとつである「VInvIn2En」が低温環境に応じたデンプンの糖変換のスイッチをオンにしていることが分かりました。
そこで両氏はVInvIn2En遺伝子のスイッチをオフにしたジャガイモを育て、これを主原料にしたポテトチップスを作ってみました。
そしてこれを通常のジャガイモを用いたポテトチップスと比較。
両者ともに揚げる前に異なる温度と日数で冷蔵保存されましたが、結果は一目瞭然でした。
下の画像を見てみましょう。
上段は、VInvIn2En遺伝子のスイッチをオンにしたままのジャガイモを「22℃で14日放置した後で加熱」「4℃で14日放置した後で加熱」「4℃で60日放置した後で加熱」したポテチです。
下段は、VInvIn2En遺伝子のスイッチをオフにしたジャガイモを同じ温度と日数で放置した後で加熱したポテチです。
スイッチオンのままだと、常温で14日置いた場合でもうっすらと茶色くなっており、4℃で60日放置した後だとほぼ真っ黒になりました。
これは低温糖化でジャガイモに大量のアクリルアミドが蓄積していたことを示します。
対照的にスイッチオフにした場合だと、どの温度で何日放置したとしても綺麗な黄金色の仕上がりになりました。
これはジャガイモの中にアクリルアミドが産生されていないことを意味します。
つまり、このVInvIn2En遺伝子のスイッチをオフにしたジャガイモを使えば、冷蔵保存した後でも発がん性物質を含まないポテチが作れるわけです。
これはスナック業界にとっても私たち消費者にとっても革新的な発明となります。
チームは現在、低温糖化を起こさないジャガイモを安定して栽培するための手法を同大にある温室施設で実験しているとのことです。
その手法が確立され、世界に広く普及すれば、私たちみんなが発がん性物質を含まない安全なポテチを楽しめるようになるでしょう。
ジアン氏は「今回の発見はジャガイモの開発と、それが(ポテチなどの)食品の品質および健康面に及ぼす影響についての理解が大きく前進したことを意味する」と説明。
その上で「この知見は世界中で販売されるすべてのポテトチップスに影響を与える可能性がある」と話しました。
ただ、ポテトチップスと健康問題の関係は、単にアクリルアミドだけでは当然ありませんし、発がん性物質が必ずがんになる物質というわけでもありません。
スナック菓子は適度に楽しむに越したことはないでしょう。