量子エネルギーテレポーテーションの実証にも成功
2023年、カリフォルニア大学とウォータールー大学の研究者たちによって、量子エネルギーテレポーテーションの最初の実証が行われました。
この実験では真空の代りにトランスクロトン酸と呼ばれる化合物が用意され、分子内部の2つの炭素原子核(AとB)の間で量子エネルギーテレポーテーションのプロセスの再現が目指されました。
実験では核磁気共鳴(NMR)を用いて炭素原子核Aと炭素原子核Bの両方を基底状態にすると同時に量子的なもつれ状態にされました。
基底状態は最もエネルギーが低い状態であり、それ以上、両方の炭素原子核AとBのエネルギーは下がることがありません。
またこの状態にある炭素原子核たちは量子ビットとしても機能します。
準備が整うと、炭素原子核Aに対して測定を行い、エネルギーを注入します。
次に測定から得られた情報をもとに炭素原子核Bからエネルギーの抽出を試みました。
(※実際には3番目の炭素原子核も補助量子ビットとして用意されました)
通常ならば炭素原子核Bも基底状態にあるためエネルギーの抽出などできません。
しかし驚くべきことに炭素原子核Bからは炭素原子核Aに注いだのに相当するぶんのエネルギーが放出されたことが判明しました。
また一連のエネルギーの出入りにかかる時間を測定したところ、わずか37.6ミリ秒であることが判明します。
通常の方法を使って分子内の炭素原子核Aから炭素原子核Bにエネルギーを送るには、その約23倍の862ミリ秒(約1秒)ほどの時間がかかってしまいます。
この結果は、通常とは明らかに異なる異常な速度でエネルギーの出入りが起きており、量子エネルギーテレポートが起きたことを示しています。
また同じく2023年にストーニーブルック大学で行われた研究では、IBMの量子コンピューターの量子ビットを使った実証実験が行われました。
この実験では2つのもつれ状態かつ基底状態にある量子ビットAと量子ビットBが用意され、量子ビットAのみにエネルギーが加えられました。
すると量子ビットBは基底状態にあるにもかかわらず、量子ビットAに注いだのに対応するエネルギーを抽出することに成功。
結果として量子ビットBのエネルギーは基底状態よりもさらに低下することとなりました。
これら2023年中に続けて発表された2つの実験は、量子エネルギーテレポーテーションの実証実験となります。
研究者たちは、量子エネルギーテレポーテーションの仕組みを使えば、量子ビットの冷却を効率よく行えるだろうと述べています。
また応用が進めば、手元に複数用意したもつれ状態にした空間Aたちにエネルギーを送り続けることで、遠隔地にある機体や装置は内部の空間Bから常にエネルギー抽出ができるようになるでしょう。
(※ただその場合、量子もつれ状態にあるペアを事前に複数用意しておく必要があるでしょう)
エネルギー源は真空そのものであるため、燃料タンクも必要ありません。
またゼロ点エネルギーより低いエネルギーを持つ空間を前方に作成できれば、カシミール効果によって前進することも可能かもしれません。
この場合、エネルギー抽出の対象となる空間Bはゼロ点エネルギーや基底状態からエネルギーを絞り出す「ゼロポイントエンジン」として機能することになります。
堀田氏らは現在、量子エネルギーテレポーテーションで抽出したエネルギーを電力の形で運用する新たな実験を行っており20年代後半の実現を目指しています。
さらに量子エネルギーテレポーテーションの研究は、宇宙の始まりを理解する助けになるかもしれません。
量子エネルギーテレポーテーション(QET)は増えてしまったブラックホールエントロピーS_BHを減らせる量子的な過程でもあります。これまで知られていたS_BHを減らすことができる物理過程は、ホーキング輻射放出のみでした。QETはS_BHを減らす第2の例になっています。 pic.twitter.com/PFNCcskyTj
— Masahiro Hotta (@hottaqu) November 4, 2018
量子エネルギーテレポーテーションでみられる負のエネルギーが絡んだ現象は、ブラックホールの事象の平面近くで起こる現象に似ているからです。
堀田氏はブラックホールのエントロピーを減らす源としてホーキング輻射のみが知られていたものの、量子エネルギーテレポーテーションも同じ効果があると述べています。