・アタカマ砂漠のミイラ「アタ」をゲノム解析した研究に科学的、倫理的観点から異議が唱えられる
・研究が主張する「骨格異常」は胎児における通常の骨格発達であり異常ではなかった
・そのため、ゲノム解析を行ったことに科学的合理性はなく、倫理的観点からも問題があった
オタゴ大学の率いた国際協力研究によって、「宇宙人のミイラ」と呼ばれた「アタカマミイラ」研究における倫理、骨格、ゲノム解析について、「不備があるのではないか」と波紋が広がっています。
疑問を呈したのは、オタゴ大学の生物考古学シアン・ハルコウ准教授が率いた国際研究チーム。論文は“International Journal of Paleopathology”で発表されています。チームは、今年始めに“Genome Research”で発表されたスタンフォード大学の研究者によって、遺体に行われた研究を審査しました。
A critical evaluation of skeletal and developmental abnormalities in the Atacama preterm baby and issues of forensic and bioarchaeological research ethics
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1879981718300548?via%3Dihub
問題のミイラは10年以上昔にチリのアタカマ砂漠の見捨てられた街で発見され、「アタ」と名付けられました。当初遺伝子を解析したスタンフォードの研究者は、このたった15センチの骨格という「異常な」特徴が、遺伝子の異常で説明できると結論付けました。
しかし、ハルコウ准教授とアメリカやスウェーデン、チリの同僚たちは、この研究にまつわる倫理、骨格、ゲノム解析に関して多くの懸念を強調しています。
ヒトの解剖学と骨格発達の専門としたオタゴ大学率いるチームは、スタンフォードの研究者が報告した骨格の「異常」には、何の証拠もないことを発見したといいます。彼らによると、スタンフォードの研究者たちが「異常」として引き合いに出した特徴は、胎児の通常の骨格発達の一部だったとのこと。
「不幸にも、アタのゲノム解析を試みる科学的な合理性はありませんでした。なぜなら、骨格は異常ではなかったからです。見つかった遺伝子変異はおそらくは偶然で、どの遺伝子変異もこの若い時点で骨格に影響するほどの骨格異常と強く結びつくとは考えられていません」とハルコウ准教授は言います。
この状況が強調しているのは、「アタ」のような事例研究においては、研究の取り組みは学際的である必要があるということです。
「骨学、医学、考古学、歴史学そして遺伝学など、複数の専門家が協力することがどれだけ科学的な解釈を正確にし、ゲノム解析の倫理的な意味合いを考えるために必須であるかを、この事例は示してくれています。細かな骨格生物学的手順の理解や文化的な背景が、こういった研究で倫理的、合法的なチェックをした上で行動したり、正しい科学的解釈をするためには必須なのです」
タラパカ大学の生物考古学者で共著者のバーナード・アリアザは、学際的な取り組みに加えて、考古学的内容を考慮することも重要だと言います。そして今回のケースは、ごく最近に起きた流産の可能性があることを忘れないことが重要です。
「このミイラは、アタカマ砂漠に住んでいた母親の悲しい喪失を反映しています」とアリアザ博士は述べています。
他にも、研究を行う上での倫理的、考古学的な研究許可をスタンフォードの研究者が引用していないことも問題としています。
結局、このような多分野に及ぶ研究を、倫理的、科学的に正しく行うためには、多くの分野の専門家による査読や議論を広く行う必要がありそうです。
via: Phys org/ translated & text by SENPAI
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