半世紀越しの夢「超固体」を光で作り出す

私たちが中学校などで学ぶように、「固体」は粒子が規則正しく並び、「液体」や「気体」ではその並びが崩れているとされています。
ところが理論的には、粒子が固体のようにきれいに配列された構造(結晶構造)を保ちながら、同時に超流動(ほとんど摩擦なく動く)する“超固体”が存在しうると予想されてきました。
実際、極低温の原子気体(ボース=アインシュタイン凝縮)を使ったり、反射率の高い鏡で光を閉じ込める装置(高フィネス光学キャビティ)を使ったり、粒子のスピンと運動量が影響し合う(スピン軌道相互作用)系を作ったりすることで、超固体の性質が観察される例が報告されています。
しかしこれらの方法は、非常に低温かつ厳密な温度・真空環境の制御など、大がかりな実験条件を必要とすることも多かったのです。
一方、近年注目されている「励起子ポラリトン」は違います。
「励起子ポラリトン」とは、電子と正孔がくっついてできた励起子と、光が強く結びついた粒子のことでたくさんの粒子が同じ状態に集まる(凝縮する)性質を持っています。
このような性質は、新たな形の超固体を生み出すにあたり恰好の候補となります。
さらに「フォトニック結晶(光の通り道を細かく設計した材料)」と組み合わせることで、従来とは異なるメカニズムで結晶が形成され、大きく性質が変わる“位相転移”を起こす可能性もありました。
とはいえ、「固体のように並びつつ、液体のように摩擦なく流れる」現象が明確に確認できるかは、長らく難題だったのです。
そこで研究者たちは、フォトニック結晶波ガイド(光を導くために周期構造をもたせた装置)に“励起子ポラリトンモード”を作り、光と物質が混ざり合った状態で結晶と超流動が同時に起こる瞬間を捉えることにチャレンジしました。
今回の実験では、まさに「レーザー光が固体のような構造をまとい、しかも粘性ゼロで流れる」という様子が観測され、フォトニック結晶を使った超固体の実証として大きな注目を集めています。