ライオンと決闘したグラディエーターを発見!
チームは注目したのは「6DT19」と呼称される約1800年前の遺骨です。
6DT19の遺骨は26歳から35歳と推定される男性のもので、別の2人とともに1つの墓に埋葬され、その上には馬の骨が重ねられていました。
彼は生前、背中への過度な負担による脊椎の問題、肺や大腿部の炎症、幼少期の栄養失調などを経験していたようですが、いずれも回復していたと見られます。
そしてチームが最も注目した点は、6DT19の骨盤に大きな穿孔痕(せんこうこん)があったことです。

チームはこの穿孔痕を3Dスキャンし、ネコ科、イヌ科、クマ類の噛み跡パターンと比較。
その結果、この穿孔痕はライオンに噛まれたことでできた傷であることが特定されたのです。
さらに穿孔痕には治癒した痕跡がなかったため、この剣闘士はライオンと戦った直後に死亡した可能性が指摘されています。
もしかしたらライオンに骨盤を噛まれて、そのまま引きずられながら絶命したのかもしれません。
あるいは”肉を切らせて骨を断つ”ように、ライオンが体に噛み付いている隙に、剣を突き刺して相討ちになった可能性もあります。
いずれにせよ、この発見は剣闘士がライオンと実際に戦っていたことを示す世界初の物的証拠となりました。

同チームのマリン・ホルスト(Malin Holst)氏はこう語ります。
「これは非常に興奮すべき発見です。
これにより、剣闘士たちが生前どのような戦いを経験していたのかについて、より具体的なイメージを構築できるようになります。
またライオンなどの大型肉食獣、あるいは他の外来種の動物が、ヨークのようなローマ以外の都市の円形闘技場にも実際に登場していたことが裏付けられました。
ライオンたちもまた、死の脅威から自らを守らなければならなかったわけです」
これまでの調査から、イングランドの都市ヨークでは、4世紀頃まで剣闘士イベントが開催されていた可能性が指摘されています。
これは当時、この都市に多くの高位軍人や政治家がローマから赴任していたことと関係していると考えられます。
ローマの有力者たちがヨークに駐在していたことで、豪奢な社交生活が求められたはずであり、それに伴って、ローマと同じくらい過激で興奮する剣闘試合が求められたことでしょう。
剣闘士「6DT19」はまさに、その求めに応じてライオンと本当に戦った勇敢な戦士だったと見られます。