医師に苦しみを無視される!?「医療ガスライティング」とは何か?
医療ガスライティングとは、患者が感じている症状や苦しみを、医師が「気のせい」「問題ない」と否定することで、患者に「自分の感覚は間違っているのかもしれない」と感じさせてしまう心理的作用を指します。
この用語はもともと、相手の現実感や記憶を否定し、精神的に操作する心理的虐待行為「ガスライティング」から派生したもので、医療の現場における同様の現象を示す言葉として注目されています。
近年では、医師たちから「symptom invalidation」とも呼ばれるようになっていますが、患者からすると「医療ガスライティング(medical gaslighting)」と呼ぶ方が多いかもしれません。

そして特に女性やマイノリティ、慢性的な痛みや疲労を抱える人々がこの体験をしやすく、そこには社会的構造や無意識のバイアスが関係しているとされています。
医師が医療ガスライティングをしてしまう背景には、時間に追われる診察環境や、医学教育において患者の主観的な訴えを軽視しがちな文化、原因特定の難しさなどがあります。
また、医師自身が無意識に持っている性別や人種、年齢に対する固定観念が、診断や対応に影響を与えることも少なくありません。
問題が顕在化した大きな契機は「長期COVID」の拡大です。
新型コロナウイルス感染症から回復した後も、倦怠感や集中力の低下などの症状が長期間続く「長期COVID」患者が急増しました。
しかしその多くが医師に「もう治っているはず」「原因不明だから様子見」と言われ、診断も治療も進まない状況に直面したのです。
そこでラトガース大学の研究チームは、このような症状の否定が患者にどのような悪影響を及ぼすのかを、質的研究を通じて体系的に明らかにすることを目的に、本調査を開始しました。
研究者たちは、線維筋痛症、子宮内膜症、長期COVID、過敏性腸症候群、全身性エリテマトーデスなど、検査結果に異常が現れにくい13種の慢性疾患に関する151本の研究論文(合計11,307人の患者)を対象に、「症状が信じてもらえなかった」体験を分析しました。
この分析は、患者の言葉やエピソードから意味や感情を抽出するメタ・シンセシス(質的研究の統合分析)という手法で行われ、研究チームはそこから共通するパターンを見出し、階層的な分析を通じて4つの主要な影響領域を導き出しました。