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臨床試験で「たった20分」の幻覚剤吸引で自殺念慮を長期持続的に急減させると判明

2025.05.20 18:00:20 Tuesday

ブラジルのリオグランデ・ド・ノルテ連邦大学(UFRN)で行われた臨床試験によって、吸入型の幻覚剤DMTを一度きり投与したところ、治療抵抗性うつ病の患者71%が翌日までに寛解レベルに達し、深刻な自殺念慮を示す人はゼロになったことが示されました。

効果は最長3か月持続し、従来薬よりはるかに速い“即日改善”を示唆しています。

この画期的な結果は、既存の治療で改善しない治療抵抗性うつ病に対する新たな希望として注目を集めています。

いったい、従来の治療と比べて何が“決定的に”違うのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年4月22日に『Neuropsychopharmacology』にて発表されました。

Rapid and sustained antidepressant effects of vaporized N,N-dimethyltryptamine: a phase 2a clinical trial in treatment-resistant depression https://doi.org/10.1038/s41386-025-02091-6

効かない薬に終止符を打つ一手

効かない薬に終止符を打つ一手
効かない薬に終止符を打つ一手 / Credit:Canva

世界では推計1億8500万人以上がうつ病に苦しんでおり、その約3割は少なくとも2種類の抗うつ薬に反応しない「治療抵抗性うつ病(TRD)」です。

従来の抗うつ薬は効果が出るまでに数週間かかり、効果が乏しい場合も多く、特に切迫した自殺念慮への即効性のある対処は困難でした。

この緊急の課題に対し、近年、サイケデリック(幻覚剤)と呼ばれる薬物に注目が集まっています。

サイケデリック薬は内のセロトニンなど神経伝達に作用して意識や知覚を劇的に変化させ、過去の研究ではシロシビン(マジックマッシュルーム成分)などが従来薬に反応しないうつ病で長期の症状改善をもたらす可能性が示されています。

しかしシロシビンやLSDなど既存のサイケデリック療法は幻覚作用が数時間続くため、治療には専門施設で半日〜1日がかりの監督下セッションが必要でした。

そこで脚光を浴びているのがDMT(N,N-ジメチルトリプタミン)です。

DMTは特定の植物に含まれ、人の脳内でも少量が産生される自然由来の幻覚物質で、アマゾンの伝統的な嗜好飲料アヤワスカの主成分として知られています。

DMT単独の作用時間は極めて短く、吸入(気化)による投与では効果のピークがわずか2〜5分で現れ、約20分ほどで体内から消失します。

一方アヤワスカではDMTの分解を遅らせる植物成分を一緒に摂取するため、幻覚作用が何時間も続きます。

吸入型DMTであれば短時間で深い幻覚体験を誘導でき、非侵襲的で時間効率の良い治療アプローチになり得ると期待されています。

研究チームは、このような超短時間の幻覚体験によって治療抵抗性うつ病に苦しむ人々に速効かつ持続的な改善がもたらせるかどうかを検証しました。

「私たちのチームは過去20年近くサイケデリック、特にアヤワスカとDMTを研究してきました。吸入型DMTではごく短い時間枠で非常にディープで強烈な幻覚体験が起こる点に興味を惹かれました。適切に支援された環境下で、これほど短い介入でも治療抵抗性うつ病の人々に有意義な変化をもたらせるのか知りたいと思ったのです」と、本研究を主導したブラジル・リオグランデ・ド・ノルテ連邦大学脳研究所の神経科学者、ドゥラウリオ・デ・アラウジョ教授は語っています。

次ページ20分で“死にたい”が消えた──吸入DMTが難治性うつを一発逆転

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