20分で“死にたい”が消えた──吸入DMTが難治性うつを一発逆転

アラウジョ教授らの研究チームは、ブラジルにて治療抵抗性うつ病(TRD)の患者14人を対象にオープンラベルのフェーズ2a試験(プラセボ対照なし)を実施しました。
参加者は中等度から重度のうつ病と診断され、複数の従来型抗うつ薬で効果が得られなかった人々です。
試験では医療管理下の病院環境で吸入型DMTを単回セッションで2回投与しました。
まず慣らし用の低用量15 mgを吸入し、約90分後に高用量60 mgを再度吸入します。
投与前後には臨床心理士らによる入念な準備セッションと統合セッションが設けられ、投与中は照明を落とした静かな部屋でリラックスできる音楽を流し、精神科医・心理士・看護師がバイタルサイン(心拍や血圧)や参加者の安全をモニタリングしました。
効果の評価には標準的なうつ病評価尺度(MADRSなど)を用い、投与直後から経過を追跡しました。
投与翌日、1週後、2週後、1か月後、3か月後にも症状の変化を測定しています。
結果、DMT吸入からわずか1日後にうつ病の症状が大幅に改善しました。

重症度評価スコア(MADRS)は平均で21ポイントも低下し、参加者の多くが「重度のうつ」から「軽度」あるいは症状がほとんどない水準にまで改善したのです。
臨床的に有意な改善(症状が50%以上軽減した「レスポンダー」)が見られた患者は全体の約79%にのぼり、約64%がうつ症状がほとんど消失する寛解状態に達していました。
その効果は少なくとも1週間持続し、7日後の時点でレスポンス率は約86%に上昇し、参加者の半数以上(約57%)が寛解を維持していました。
さらに驚くべきことに、追加のDMT投与を行わずとも3か月後には57%が依然として効果に反応し、36%が寛解状態を保っていたのです。
以下はその驚きの効果の具体例です。
迅速な効果発現: 抗うつ効果は24時間以内に現れ、7日間の平均でMADRSスコアが21ポイント低下しました。
多くの患者で重度の抑うつ状態から軽度または症状なしの状態へ大きく改善が見られました。
高い寛解・応答率: 翌日までに約79%が有意な改善(レスポンス)を示し、約71%で症状の寛解(完治でないものの症状が消えたこと)に到達しました。
1週間後にはおよそ86%が効果に反応し、そのうち57%が寛解を維持していました。
(※より少人数のパイロット研究でも、翌日(Day 1)までに約83.33%がレスポンスを示し、約66.67%が寛解に到達しました。)
持続する抗うつ効果: 3か月後のフォローアップ時点でも57%が効果を維持し、36%が寛解を持続しており、長期間の改善が確認されています。
自殺念慮の劇的な減少: 治療開始前、参加者の約9割が何らかの自殺念慮(死にたいと考える気持ち)を抱え、そのほぼ半数は「計画が具体的になるほど深刻」なレベルでした。
しかし治療翌日には重度の自殺念慮を示す参加者は一人もおらず、自殺念慮のスコアも大幅に減少しました。
軽度から中度の自殺念慮を示す患者も21%に大幅に減少しました。
その後3か月間の追跡期間でも多くの参加者で自殺念慮の軽減効果が維持されていました。
特筆すべきは、こうした自殺念慮の低下が気分(うつ症状)の改善と軌を一にしており、抗うつ効果が自殺リスクの低減につながっている可能性が示唆されました。
安全性と副作用: DMT吸入セッションは安全に実施でき、深刻な有害事象は報告されていません。
投与直後に一時的な血圧・心拍数の上昇が見られましたが、適度な運動時と同程度の生理的変化であり、一過性で問題はありませんでした。
主な副作用は吸入時の喉の刺激感や咳込みで、いずれも短時間で治まりました。
一部の参加者は翌日に軽い頭痛や不快感を訴えましたが、こちらもすぐに消失しています。
また興味深いことに、研究チームによれば、幻覚体験中に見られるビジュアルが複雑で鮮烈であるほど改善度が高まる傾向も示唆されました。
一方で、幻覚の強さ(主観的な「トリップ」の強度)と治療効果との間に明確な相関は認められず、必ずしも「強く幻覚を見れば治療効果が高い」というわけではないようです。
興味深いことに、DMTの体験時間は10〜20分程度と非常に短いにもかかわらず、ほぼ全員に安定して顕著な改善が見られた点は研究者にとっても驚きでした。
アラウジョ教授は「DMT体験自体はわずか10〜20分ですが、それにもかかわらずこれほど一貫して強い臨床効果が得られたことに驚いています。
多くの参加者はセッション中に感情的なブレイクスルー(突破体験)を経験しただけでなく、たった一度の投与で気分や展望に持続的な変化が現れたのです。
従来の精神科治療では、こうしたことは通常見られません」と述べています。