神経の誤作動がもたらす「見えない痛み」
慢性痛のなかでも、神経障害性疼痛(neuropathic pain)は特に治療が難しいとされています。
これは、末梢神経や中枢神経の損傷などが原因かもしれず、「痛み信号」が誤って脳に送られ続ける状態です。
たとえば、怪我は治ったのに痛みだけが続いたり、あるいは軽く触れただけで電気ショックのような激痛が走ったりするのです。
これらは神経の誤作動が引き起こしている可能性があります。

そのなかでも特に複雑なのが、角膜の神経障害性疼痛(CNP:corneal neuropathic pain)です。
角膜は身体の中で最も神経が密集している部分の一つで、レーシック手術、コンタクトレンズ、感染症、ドライアイなどの影響で神経が損傷することがあります。
患者は「眼が焼けるように痛い」「何かが入っているように感じる」と訴えるのに、眼科検査では異常が見つからないというケースも多く、医師ですら診断が困難です。
そして、既存の薬物療法や点眼治療では効果が得られにくく、慢性的な痛みに苦しむ人も少なくありません。
このような背景から、UNSWの研究者たちは神経の誤作動に対処するための、「脳や神経の信号を再構築する新しいアプローチ」が必要だと考えました。
過去の別の研究でも、脳の再教育で慢性的な痛みを軽減できることが分かっています。
今回注目したのはEEG(脳波)神経フィードバックという技術です。
これは、脳波をリアルタイムで計測し、その状態に応じて視覚的なフィードバックを与えることで、本人が脳の活動状態を自己調整することを促すものです。
今回開発されたトレーニングゲームでは、プレイヤーはクラゲが漂う黒い海のような画面を見つめることから始まります。
脳が緊張している状態では水は暗く沈んでいますが、リラックスすると水が青緑色に変わっていきます。

これは、EEGセンサーがアルファ波などリラックス状態の脳波を検知すると、即座に画面の色調を変化させる仕組みです。
プレイヤーは、何度もこの「海の色の変化」を経験することで、無意識に痛みを和らげる脳の状態=自己調整力を育てていくのです。
このゲームを用いた脳トレは、参加者の自宅で、1回20分程度のセッションを週5回・合計4週間(計20回)にわたって実施されました。
さらに、トレーニング終了後には直後および5週間後にフォローアップ期間を設け、持続的な効果や自己練習の成果を評価しています。