1万4000年前のミイラは「オオカミ」の姉妹だった!家畜化した初期のイヌではなかった
綿密な調査の結果、最初に明らかになったのは、2体のミイラが遺伝的に姉妹であるということです。
年齢はともに生後2か月ほどで、骨の成長具合や胃の中に母乳の痕跡が残っていることからも、まだ離乳の途中だったと考えられます。
次に重要だったのは、DNA解析の結果、この姉妹が現代のイヌとは別系統にあたる、絶滅したオオカミの一種であることが判明したことです。
つまり、外見こそ「子犬」のようでも、彼女たちは「オオカミ」であり、家畜化された犬ではなかったのです。

さらに驚きの発見が、胃の中から検出されました。
なんと、絶滅したケブカサイ(学名:Coelodonta antiquitatis)の皮膚の一部が未消化の状態で見つかったのです。
成獣であれば現代のオオカミでも歯が立たないような大型動物ですが、幼獣だった可能性が高く、親オオカミが群れで仕留め、子どもに与えたものと考えられています。
それでも、幼いケブカサイでさえ現代のオオカミが狩る獲物としては規格外に大きい存在です。
そのため、この時代のオオカミは現代のオオカミよりも一回り大きく、強力だった可能性を示唆しています。
また、胃の中からはケブカサイの肉だけでなく、多様な食物が確認されました。
このことは、当時のオオカミが肉食に偏らず、雑食傾向のある生き方をしていたことを示しています。

では、「人間との関係」はどうだったのでしょうか?
研究者たちは、胃の内容物にマンモスの痕跡がなく、周囲にも人間由来の道具や接触の明確な証拠が確認されなかったことから、「2頭が人間に飼われていたという確かな根拠は見つからなかった」と結論づけています。
1万4000年前、おそらく彼女たちは、巣穴の中で食事を終え、休んでいたのでしょう。
そして何らかの地滑りや土砂崩れにより生き埋めとなり、永久凍土に包まれて奇跡的な保存状態で現代まで残されたのです。
この発見は、単に「トゥマト・パピーは飼い犬ではなかった」ことを示すにとどまりません。
これまでイヌの特徴と思われていた「黒い毛」も、実はオオカミに存在していた可能性があることがわかったのです。
つまり、黒毛=犬化のサインという古くからの仮説も再考を迫られています。
イヌの起源をめぐる物語は、より複雑で、より深いミステリーになりつつあるのです。
それでもいつか、人類とイヌが出会った瞬間が明らかになる日が来ると、私たちは信じています。