蚊以外の害虫も激減

今回の成果は、従来の蚊帳や殺虫剤散布に追加して経口薬で「人間を蚊取り線香化」するという全く新しいアプローチが、現実の地域社会で有効に機能しうることを示しました。
結果の26%減少という数字は決して小さくありません。
特に、殺虫剤抵抗性の蚊が増えつつある地域や、蚊が屋外で活動するため従来の蚊帳では守り切れない状況では、この手法がゲームチェンジャー(状況を一変させる新戦略)になる可能性があります。
実際、今回のBOHEMIA試験はイベルメクチンによるマラリア対策としては過去最大規模のもので、その確かなエビデンスは国際的にも大きな注目を集めています。
WHOのベクター制御諮問グループも本研究をレビューし、「集団投薬によるマラリア抑制効果が示された」と評価、さらなる追試とデータ収集を推奨しました。
今後、各国の保健当局でもイベルメクチンをマラリア対策に組み込むことが検討されていくでしょう。
幸いイベルメクチンは既に安価で大量生産が可能であり、世界的にも普及が容易な薬剤です。
さらに本研究では思わぬ副次効果も報告されています。イベルメクチン投与地域では、マラリアだけでなくヒトの疥癬(ヒゼンダニ症)やシラミの感染症も減少し、ケニアの試験地では住民からトコジラミ(南京虫=ベッドバグ)が激減したとの声も上がりました。
つまりこの薬を配ることで、蚊以外の厄介な害虫もまとめて退治できる「一石二鳥以上」の効果が期待できるのです。
もともとイベルメクチン自体、寄生虫病の特効薬として「人類の病」を長年減らしてきた薬ですが、それが今度は「人類の天敵」である蚊をも倒せる武器になるかもしれないというのは、科学の妙と言えるでしょう。
さらなる課題としては、効果を最大化する投薬戦略(どの頻度でどの期間投与すべきか)や、蚊が将来的に耐性を持たないようにする工夫などが考えられます。
しかし研究チームは既に次の展望も描いています。例えば今回のケニアの試験では5~15歳児にフォーカスしましたが、今後はより幼い子どもや妊婦への投与、安全性も含め検討する必要があります。
また2022年にはモザンビークでも同様の試験が行われましたが、現地のサイクロン災害やコレラ流行で中断を余儀なくされ、大きな成果は得られませんでした。
この経験から、地域住民の理解と協力を得る重要性や、安定した医療インフラの必要性といった課題も浮き彫りになっています。
それでも「蚊を殺す薬」を使った新たな対策が示したポテンシャルは大きく、専門家はその将来性に期待を寄せています。
研究統括者のレジーナ・ラビノビッチ氏(ISGlobalマラリア根絶イニシアティブ部門長)は「この研究は、既存の手段が効きにくくなっている地域でマラリア予防の未来を切り拓く可能性があります。安全性と効果が今回の大規模試験によって実証された薬剤を使い、他の蚊対策と組み合わせることで、マラリア制圧の効果を高められる点で画期的です」と述べています。
飲むだけで蚊を寄せ付けないどころか殺してしまう――そんな夢のような「飲む蚊取り線香」が、将来マラリアから世界中の人々を守る切り札となるかもしれません。
蚊と人類の戦争の切り札になるか、イベルメクチン。
コロナの時のあれで名前はみんな知ってそう。
蚊がイベルメクチンに耐性を持つことは無いの?
あると思います
作用の違う薬物を10種類くらい用意して順番に使わないと
一個ずつ使うと数年後に耐性もった害虫が増えるだけだと思う
どちらにしろ刺されるのは前提だから地域の全員に配布するぐらいはした方が良いよね
家畜の寄生虫(線虫類)やヒゼンダニなどですでにイベルメクチン耐性を持つものが知られています。
大規模に実施すれば当然イベルメクチン耐性を持つ蚊も出現することでしょう。