核融合炉に「水銀を入れて金に変える」仕組みが発表――採算もとれる予定
核融合炉に「水銀を入れて金に変える」仕組みが発表――採算もとれる予定 / Credit:Canva
physics

核融合炉に「水銀を入れて金に変える」仕組みが発表――採算もとれる予定 (2/3)

2025.08.06 19:33:15 Wednesday

前ページ金を生む核融合

<

1

2

3

>

水銀が金になる仕組み

水銀が金になる仕組み
水銀が金になる仕組み / Credit:Canva

核融合発電を利用した錬金は採算がとれるのか?

答えを得るため研究者たちはまず、理論的な仕組みを構築しました。

最初の準備は、まず金の原料として「水銀198」を用意します。

水銀198は天然水銀中に約10%存在することが知られており、安くはありませんがかなりの量を確保できます。

次に核融合炉を起動させ、2つの水素の仲間が合体して「ヘリウム原子」と「中性子」になる反応を起こし膨大な熱を発生させます。

電気を作る主役はこのときに生じる熱で、この熱を使って水などを沸かしタービンを回すことで発電が行われます。

一方、核融合が起きた後の中性子は物凄い速さで飛び去っていきます。

そのため高エネルギー中性子はある意味で副産物と言えます。

次のステップは、この高エネルギー中性子を水銀198に照射します。

するとビリヤードの玉突き事故のように原子核から中性子を2個はじき飛ばします。

この反応は「(n, 2n)反応」と呼ばれ、1つの中性子が水銀198の原子核に衝突すると、原子核から2つの中性子が飛び出し、原子核は結果的に中性子を1つ失って水銀197へとダイエットします。

しかし生成直後の水銀197は不安定です。

生成された水銀197(基底状態)は半減期約64時間の不安定核種で、電子捕獲により金197(安定同位体)へ崩壊します。

この原子核の回っている電子を飲み込むというのは、極めてドラマチックな結果を引き起こします。

電子を吸い込んだ反動で陽子の一つが中性子に変わり、原子番号が1つ減少して別の元素――金197となるのです。

こうして得られた金197は自然界に存在する唯一の安定な金の同位体、すなわち本物の「純金」です。

簡単に言えば、核融合炉から飛び出てきた中性子の剛速球を水銀にぶちあててダイエットさせ、原子番号を1つ下げて金にするわけです。

しかし話はここで終わりではありません。

核融合炉を連続運転するには、中性子とリチウムとの反応で燃料のトリチウムを炉内で生産(増殖)し続けなければなりません。

研究によれば核融合炉から飛び出した高エネルギー中性子を水銀198に照射すると追加の中性子が生まれ、トリチウム養成比(TBR)を維持・向上できることが示されています。

つまり、核融合で電気を作って売るだけでなく、水銀との組み合わせで燃料生産効率も維持・向上し、水銀が金になるオマケも付く公算です。

次にMarathon Fusionの研究チームは、このアイデアを試すために核融合炉ブランケット(炉心を取り囲む中性子増殖層)の内部に水銀198を組み込んだ場合のシミュレーションを行いました。

すると、1GW(熱出力)相当の核融合炉を想定した場合、年間約2000kg(電力出力1GWあたりでは最大約5000kg)の金が生産可能と算出されました。

現在金1kgは約10万ドル(約1300万円)を大きく超える値段で取引されているため、仮に年間2000kgの金が生産できれば、核融合炉の収益が年間で数百億円も追加されることになるでしょう。

著者らは、この「副収入」が核融合発電の経済性を劇的に向上させ、将来的な商業化のハードルを大きく下げると主張しています。

次ページ「核融合炉錬金術」の課題

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!